After the dream……1

After the dream...

カツン……カツン……カツン…………


乾いた音が冷たい回廊に響く。

生きとし生けるものは闇の中に息を潜め、皆一様に何事もなくその音が自分の檻の前を早々に過ぎ去ることを切望していた。

皆一様にその瞳は光を湛えてはおらず、死人のようにその表情を無くしていた。


日の当たらないその場所に突如現れたその音は一人の人間によるものだった。

頭からすっぽりと真っ黒な外套を被った『それ』は、背格好からかろうじて男であるだろうと予想はつくものの、そのかんばせからは表情は窺えず、伏せられたサファイアが冷たく煌めいている。


『彼』は、最近増えたばかりの一人の住人の前でその足を止めると、外套を脱ぎ捨て、その白皙の美貌を晒した。

空間に薄暗い灯りを齎す松明に照らされて、そのパープルブロンドがプラチナに輝く。


目の前に立った男の顔を見ると、住人――メアリー・ポーラ元男爵令嬢は、その落ち窪んだ瞳を輝かせて今にも掴みかからんばかりの勢いで迫ってきた。



「ルーカス様!やっと私をここから出して下さるのですね!ああよかった、これで安心だわ。やっぱり殿下も私のことが好きだったんでしょう?私が捕まる手助けをするだなんてって思ったけど、オリバー様から引き離したかっただけだったのよね。まあいいわ、可愛い嫉妬だったっていうことで許してあげる!ねえ、それで私はいつここからでられるの?あなたが迎えに来てくれたってことは、すぐに出られるのかしら?」


一息に捲し立てたメアリーに、まだここまでの元気が残っていたのかといっそ感心する。大抵はここに入れられると希望を失って生きる屍と化すのだ。

そしてどうやら、いまだにメアリーは自分が助かる気満々のようだ。

あれだけ件のパーティーでアリシアに懇切丁寧に説明してもらってなお現実を受け入れることができないようだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る