第8話

「はい。何でしょうか、陛下?」


アリシアは、体ごと国王の方を向き、彼の目をしっかりと見据える。いつもの伯父として彼女に向けられる優しく朗らかな声ではなく、王として公正な立場で物事を見ようとするものだ。



「今聞いた限りでも相当な事があったことと思う。侯爵も息子への監督不行届があったようだ。にも関わらず、侯爵及び侯爵夫人への賠償は求めないのか?」


先程のアリシアの2人への対応が気にかかったのだろう。彼は純粋な疑問をぶつけてきた。

ほんの少し考える素振りを見せた後、ゆっくりと口を開く。


「……確かに私はマーシャル侯爵令息から酷い扱いを受けたかと存じます。それについてお2人に監督責任があったことも認めましょう。ですが、このことをお2人に報告しなかったのは私の判断です。」



もっと早くこのことを伝えていれば結果は違っていたのかもしれない。言外にそう含ませる。

確かに尤もらしき言い分には聞こえるが、それと納得する訳には行かない。それを認めれば相手からの被害届がなければ何をしても良いという理論がまかり通ってしまうのだ。


とはいえ、アリシアがそんな甘さを持ち合わせているような人間では無いことを幼い頃から見てきた国王は知っている。

――きっと他に狙いがあるのだろう――

彼がそう考えてしまうのも自然な事だった。

可愛い姪っ子に害が無いのならこのまま成り行きを見守るのも面白そうだなと思い直す。



「そうか。貴女がそれでも良いのなら私から言うことは何も無いよ。」

「お気遣いありがとうございます、陛下。」


国王が考えた通り、アリシアは考えもなく侯爵夫妻を許した訳でも、情けをかけたわけでもなかった。

ただ単純に、直接自分に害をなしたオリバーとメアリーの2人に反省の色が全く見えない事が気に入らなかっただけなのだ。

色々と話が飛んだおかげで全く進んでいなかった自分のいじめ疑惑を晴らそうとオリバーとメアリーの2人に向き直ろうとした時。


「待ってください陛下!アリシアさんの話だけで納得するなんておかしいじゃないですか!?私はこの人にいじめられたって言ってるじゃないですか!」


思わぬ所で突然メアリーが乱入してきたのだった。

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