④

アリシアはふわりと美しい微笑みをそのかんばせに浮かべ、口を開く。

「ねぇ、そこの貴女。そう。ピンクの髪の貴女。」

「ピンクの髪のって何よ！またあたしのことそうやってバカにして！」

「あぁ、もう、お黙りになって？何度同じ事を言わせるおつもり？それに馬鹿にしている訳ではなくてよ。先程も言いましたけれど、私、貴女から自己紹介されていませんもの。……あぁ、結構ですわ。私、貴女に口を開く許可は出していませんし、貴女に興味もありませんもの。」

「……なっ……なっ……」

口をパクパクさせながら戦慄くばかりのメアリー。彼女の肩に手を置き、何とか落ち着かせようとするオリバー。はぁ。話が進まない。いちいち2人の世界を作るのはやめて欲しいものだ。

オリバーはメアリーから視線をあげると、きっとアリシアを睨み付ける。

「アリシア！君は本当に性格が悪いね。君が聞き入れないようだから僕が紹介しよう。彼女はメアリー・ポーラ男爵令嬢。まったく、嫉妬に狂った女なんて見苦し」

「あぁ、それも。不愉快ですわ。ねえ。私との婚約は破棄なさるのでしょう。」

「当然だろう！君のような底意地の悪い女。メアリーが僕に愛されているからといって嫌がらせばかりして。」

「ですからアリシアと呼ぶのはおやめ下さいませと先程から申しているのです。不愉快ですわ。マーシャル侯爵令息。」

婚約者でもなければ親族でもない好きでも何でもない男に名前で呼ばれるなど言語道断だ。気持ち悪くて仕方が無い。

「な……何を突然……それに、君は僕の事が好きなんだろう！？アリシア！」

「ツェローラ公爵令嬢。貴方に耳は付いていないのですか？それとも貴方の頭には綿でもつまっているのかしら？まぁ、どちらでも良いですけれど。興味無いもの。それから、私が貴方のことが好き？冗談も大概にしてくださいませ。」

早口で一気に捲し立てる。はしたないかしら？でもね、嫌いな人と同じ空間に長時間いるのってストレスじゃない？なるべく早く退場して欲しいのよね。

「それから。マーシャル侯爵令息、ピンクの髪の……もうめんどくさくなってきたわ。ポーラ男爵令嬢？ねぇ、お二人共どうして私に敬語を使わないのかしら？ポーラ男爵令嬢に至ってはマーシャル侯爵令息の事は『オリバー様』と呼ぶのにも関わらず、私の事は『アリシアさん』と呼んだわよね？どういう了見なのか聞かせて頂いても？まさか貴族の序列が分からないなどとは言わないでしょうね？」

「そんなことあたしは……」

「嘘をつかれると？ここには国王陛下もいらっしゃいます。陛下の前で嘘をつくとはご自分から罪人になりたいので？……あぁ、証拠が無いとでも言い張るつもりかしら？ご安心を。あちらで私の友人が事の1部始終を録画してくれていますの。言い訳無用ですわ。」

しばらく呆然としていたメアリーは突然開き直ったかのように堂々としだした。

「ふんっ、何を言っているの、はこっちのセリフよ！」