犯行予告

岸亜里沙

犯行予告

暗闇をオレンジに染めるように、炎は激しさを増し、たけり出した。


深夜、狭い路地裏の先にある、築40年のアパートから出火した火は、密接した家々を巻き込みながら成長し、龍と見間違う程の黒煙を天へと昇らせている。


静寂を切り裂くサイレンの音と、集まり来る野次馬の群れ。

地獄の業火があるとすれば、このような感じか。


オレの名前は、火賀ひがたける

名前の通り、今夜の火事を引き起こしたのは、このオレ。


オレは美しい炎のイルミネーションを、近くの高台からゆっくり見物している。

眼下に広がる光景は、オレという一人の人間によって作り出された芸術作品だ。


──なんて美しいんだ。これはオレの最高傑作だ──


夜明けまではかなり時間がある。

このショーの余韻を味わう時間は、たっぷりと残されている。


オレは夢中で写真を撮り続けた。

刻一刻と変化する炎を、余すところなく記録に収める為に。


「ちょっと君、何をしているんだ?」


突然声をかけられ、振り返るとそこには2名の警察官が居た。

懐中電灯で照らされ、目が眩む。


──ちっ、邪魔しやがって──


「ああ、すみません。わたくし、こうゆう者です。こんな時間にこんな場所で写真を撮っているんで、不審者に見えましたよね」

そう言って、オレは名刺を差し出した。


「◯◯新聞の方?」

名刺を見た1人の警察官が聞いてきた。


「ええ、そうです。取材でたまたまこの近くのホテルに泊まっていたのですが、大火事の一報を聞きまして、私の記者魂にも火が付きましてね。それで写真を撮っておりました。確かに私の行為は不謹慎かもしれませんが、報道に携わる者として、伝えなければならないと思った訳です」

我ながら立派なスピーチだと感心した。


「分かりました。この辺は暗いので、気をつけて取材をしてください」

警察官はそう言い残すと去っていった。


──滑稽なもんだ。オレが記者というだけで、簡単に信じやがって──


このような手口でオレは、45都道府県で放火をしてきた。

今回の放火で46都道府県目。残るはあと1つ。それで日本制覇だ。


取材の名目であちこちを飛び回れるのは、ありがたかった。

そして記者という肩書きも、オレにとっては好都合だ。

オレが作り出した芸術を記録に収めていても、特段怪しまれる事もない。

それに手口を変えさえすればほぼ捕まらないのも理解した。特に放火の場合、情報は都道府県を跨いで共有される事も少ないのだ。


だが、些かオレもこの放火しごとが単調になってきているのを感じている。

なので、警察諸君にチャンスをやろう。

オレを捕まえるチャンスを。


最後に放火する都道府県は、群馬県だ。詳しい場所までは、まだ決めていない。

日時は9月の中旬。

オレも少しスリルを味わいたい。


オレが勝つか、警察が勝つか。


キャッチミーイフユーキャン!

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犯行予告 岸亜里沙 @kishiarisa

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