FXずんだもんの借金生活~すべてがリアルな実体験~

FXずんだもん

第0話 FXずんだもんがFXずんだもんになる前のこと

 「好きな人ができた。別れよう」

 すべての始まりはそこからだった。

 お金があれば別れなかったかもしれない

 お金があればもっと会いに行けたかもしれない

 お金があればもっと素敵な人間になれたかもしれない

 

 思い返せば幼少期から両親ともにお金がないから……と口癖のように言っており、洋服も食事もすべて安さを重視して生きてきた。父親は転職を繰り返し、時には無職の期間もあった。母親はパートに出かけているために家事はすべてFXに任せていた。社会人になり生活が豊かになるかと言われればそうでもない。基本給が低く上がらない給料、そのために一人暮らしできず実家での生活が続いていた。そんな生活で家族仲もいいはずがなく、FXずんだもんは恋人と暮らす夢を見ていた。しかし、それも夢で終わってしまった。

 お金を稼ぐ方法を調べても副業、借入など大したものは出てこなかった。だが、FXずんだもんは数年前に流行に乗って仮想通貨に投資したことがあった。そこで大損して一生やらないと決めていたのだが、FXならどうだろうか。仕事柄時事や社会情勢にはある程度関わっていたので、FXならいけるかもしれない。そう思ったのがすべての終わりの始まりだった――


 FX業者を決めるのに対して時間は関わらなかった。FXずんだもんが探していた条件としては①ゼロカットシステムがあること②レバレッジが1000倍以上なこと

 ゼロカットシステムとは、投資した金額以上の損を被らないことである。国内業者のほとんどはこのシステムを採用しておらず、借金を負う可能性があった。このことから海外FX業者を探した。そしてレバレッジとは、投じた資金以上に投資できることで、このレバレッジが多ければ多いほど危険が高まるとともに大きく稼げる可能性も高まる。国内業者は25倍までと規制があるが、海外業者は500倍から1000倍まで多様でハイレバレッジが可能だった。この2点を踏まえ、ボーナスもふんだんにあるゲムフォレックスを使うことになった。どこの世界でもあるがFX業者でも改悪はよくあることでゲムフォレックスも例外ではなかった。


 本人確認も済ませ、まず最初は入金しなくても使えるボーナス2万円は使いFXを初めてみた。色々な通貨があるが、まずはドル・ユーロの円建てを見ていった。理由は円建てであることから、情報が入ってきやすいこと、さらにドルとユーロは世界的にも流通量が多く、情報も入ってきやすいことからこの二つに絞っていた。最初のトレードでは何もわからずにとりあえず1ロットをロングしてみた。


【ここより下はFXの説明なので既知の方は飛ばしてください】

ロットというのは単位で、1個、1ダースなどのように1個で何個というのを表している。海外業者では1ロット10万通貨を表しており、この時のドル円は1通貨約108円だった。つまり、108円×10万通貨で10,800,000円分、円を売ってドルを買っていた。よく取引してポジションを持つことをロング、ショートというが、ドル円でいうと、ロングはドルを買って円を売る動き、ショートはドルを売って円を買う動きのことをいう。ドル円は値動きの落ち着いてる通貨と言われており、1日に動くのは20銭~30銭程度が多い。この20銭~30銭を1ロットで取れると2万円~3万円になる。ちなみに20銭と表記しているが、この20銭をほかの通貨でも共通に呼ぶためにpipsと呼ぶことがある。1銭が1pipsで1円なら100pipsになる。

【説明終わり】


 最初のポジションは何もわからずに消えてしまった。1ロットがどれくらいなのか、証拠金維持率とはなんなのか。そこから調べることになった。そして、その頃はまだ貯金もそこそこあったので試しに10万円を入れることになる。その10万円で持ったロット数は5ロット。ドル円をショートした。この時は何もわからずにとりあえず感覚で入れていた。あとで知ったのだが、その入れた時間に経済指標が発表されていた。経済指標とは金利の上げ下げやGDPの発表など、為替に関係あることが大いにある。そしてその発表があった後、みるみるドル円は下がっていき、怖くなったFXずんだもんはまだ下がると思いつつも利益確定、40pipsの利幅をとることができ、約20万円稼ぐことができた。海外FX業者ということもあり、すぐに出金申請を済ませると、次の日の午後には着金していた。1か月の給料を1日で稼げてはまらない人がどこにいるだろうか?次の日にも10万円入金し、今度は仕事中に上がるだろうと、適当にニュージーランドドルの円建てをロングした。この時は本当に適当に何もわからず、なくなっても10万円稼げているからとまた5ロットロングしていた。そして仕事終わりいの一番に携帯を見ると10万円稼げていた。20pips幅を獲得できていたのだ。ここでやめていればきっと幸せに生活することができたのだろう。あんなに後悔することもなかったのだろう。戻れるならこの時に戻りたい。もっと言えばFXに手を出さずに恋人と別れずにいれば……


 それからは毎日FXをやることになった。また次の日には10万円を入金し、仕事終わりを楽しみに待っていた。今度はユーロを円建てで5ロットロングしていた。なんとなく胸騒ぎがしてトイレ休憩中に携帯を見ると、0の文字が無情にも浮かんでいた。震える手、鼓動が早くなりどうしようもない不安に襲われる。仕事中はそのことで頭がいっぱいになりその日は何も手につかなかった。帰ってからいろいろ考えはしたが、きっとまた稼げるという結論を出して次の日を迎える。そしてまた10万円を入金し、再びニュージーランドドルを円建てで5ドルロングした。ニュージーランドドルは1ニュージーランドドル70円前後であったため、証拠金が少なくて済むため好んでいた。ポジションを持って仕事をするのは長期投資を想定していないと無理だろう。その日もそわそわして仕事に身が入らず、トイレ休憩で携帯を見た。すると約15万円の含み益があり、利益確定をせずに上機嫌でトイレ休憩から戻った。その後の仕事のはかどりぶりは前日とは比較にならないほどだっただろう。精神的に楽な状態はすべてがうまくいく気がした。いつも通り仕事終わりに携帯を見るとまたも0の文字しか残っていなかった。正確には2000円くらい残っていたかもしれないが、そこから挽回できるはずもなく、失ってしまったはずだ。客観的に見れば今まで稼いだお金が消えただけで辞めればいいのにと思うかもしれないが、お金を失うと取り戻さないといけない感情が芽生えてくる。そしてすべてを失ってから自分の愚かさに気づくのだ。


 20万円をとりあえず取り戻したい。そんな思いから給料をすべてつぎ込んでは溶かし、ついには貯金にまで手を出していた。それまでの総額の負けは100万円ほどだっただろうか。これをすべて取り戻すためにFXずんだもんは大胆な行動に出る。それは生前贈与で渡された使ってはいけない110万円をFXへつぎ込んだのだ。今まで10万円を20万円、30万円にできるなら100万円もできるはずだと思っていた。そして仕事前に入金とドル円を20ロットロングをし、仕事に入った。この時のゲムフォレックスというFX業者は30ロットまでしかポジションを持つことができなかった。いつもより多い金額で多くのポジションを持って望んだドル円ロングだが、お昼休憩の時に携帯を見た。するとマイナス50万円の文字が浮かんでいた。ここで損切りをするわけにもいかなく、追加で10ロットロングをして30ロット持っていた。30ロットだと30pipsで90万円くらい動き、一日でなくなることもある。それがこの日だった。仕事終わりに急いで携帯を見ると何もかもなくなっていた。きっと急激に値幅が変動してロスカット率20%なのに資金の1%も残らなかった。

 帰りたくなかった。

 このまま電車に飛び込んでしまおうかとも思った。

 お金を稼いで家族を喜ばしたかった。

 ただそれだけなのに家族のお金まで使い込んでとても情けなかった。どうやって取り返すかそればかり考えていた。まだほかの銀行口座には少しお金が残っていたし、給料も入ってくる。そのためにFXを継続することにした。毎年12月に生前贈与の金額が入金され、両親にその通帳のチェックがされる。少なくともそれまでに稼いで返さなければいけなかった。FXを始めたのが6月。そこから11月まで負けまくる日々が続いていた。


 借り入れをして返そう。110万円ならうまくいけば返せるかもしれない。しかも借入を会社にばれずに。そう考えて消費者金融への借り入れを調べた。そしてこれから何度もお世話になるアイフルと契約を結ぶことになる。アイフルは会社に電話が行くことがほとんどないと書いてあったため、そこを選んだ。さらに初回に限り、30日間利息0円なのも動機となった。借入金額は50万円。借り入れをして取引する日は11月23日、勤労感謝の日に決めていた。その日は両親ともに仕事に出かけているために家でトレードがしやすいと考えていた。そしてFXずんだもんの最初の借金トレードが始まった。


 分析は完璧だった。ドル円を下がったらロング。そう考え、気が狂いそうだったので掲示板にも借金トレードであることを言いつつトレードした。下がるごとに1ロット、また1ロットとポジションを入れていき、20ロットを持ったころ一気に上昇し始めた。掲示板では「ポジション入れるなら反対だろ」という声や「いい感覚しているね」など様々な反響があったが、反対している人を差し置いて上がっていくチャートを見るのはざまーみろという感覚でいっぱいだった。そして含み益が増えていき、どうせだからと最大ポジション数である30ロットにしようと追加でポジションを持った。そしてヤフーニュースになるくらい上昇が続き、一時115円を記録したはずだ。そこで含み益は93万円ほどで、100万円になったら利益確定しようと思った。だが一向に動かず、ずっと横横の動きで何回も利益確定してやり直そうと思った。ポジションを入れたのが午前10時ごろでそれから午後3時ごろには動かないチャートに少し飽き始めていた。YouTubeでドル円の動きを発信している人を見ると、「休日の相場なので突然チャートが上下に移動するので、今からポジションを持つ人は気を付けてください」という人もいた。とても怖くなったが、さらなる含み益を獲得できるチャンスでもあり期待と不安でドキドキしていた。そして午後5時ごろ、急にチャートが下降し始め、含み益が40万円まで減ってしまう。しょうがないと利益確定しようと思った次の瞬間、見たことないくらいの下落が始まりすべてのポジションが決済されてしまった。


 あああああああああああああああああああああああああああああああああ


 腹の底からそんな声が出たことあるだろうか?人間は本当にやってしまったときはこんな声が出るのだろうかと思うくらいに叫び、後悔し始めるのだ。午後5時といえば欧州時間が始まるころだろう。こっちが休日でも向こうは平日なのだ。しかも運が悪いことに母親の帰宅時間だった。動揺してどうにもならなく無気力のFXずんだもんはすべてを母親に打ち明けることになる。ぼろぼろ泣き崩れるFXずんだもんに母親は今まで聞いたことないくらい優しい声で「どうしてそんなことしたの? これで早く借金返してきな」とすぐさま借金だけは返すよう促した。そして泣きながらATMへ向かい、母親に感謝しながら消費者金融への借金は完済した。しかし、110万円と今回母親から借りた60万円、その他FXをする前に50万円の借金がFXずんだもんにはあった。すべての財産をFXへ使ってしまい、さらに借金を抱えることになった。この時ほど死にたいと思ったことはないだろう。母親にはたっぷり叱られ、ネット銀行以外はすべて渡し、給料も返済へ充てられることとなった。生きていて楽しくないのはこの時から始まっていたがすべて自業自得だった。普通に生きていれば今頃100万円ほど貯金はあっただろう。だが、過去は変えられないし家が貧乏なのに楽して稼ごうとしたFXずんだもんも悪かった。この日から毎日帰ってからは家族に顔を合わせるのも気まずく、布団ですぐに寝る日々が続いた。そしてこの2か月後からFXとして活動を始めることになった。

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