占いの行方 1
ある日、フェリシアのもとに、母親から魔法通話があった。
「え? 見合い? どういうこと、ママ」
『お父さんの知り合いの息子さんが実家を継いで、この前うちにご挨拶に来たんだけれど、そのとき貴方の写真を見て、えらく気に入って、会いたいそうよ』
能天気な母親は、世間話でもするかのように娘に事の詳細を話した。
「見合いなんて……」
フェリシアは言葉に詰まった。まだミランとの関係を両親や兄に話していないのだ。
フェリシアの動揺をよそに、母親は話を続けた。
『お相手は同じ貴族よ。ただけっこう年上で、今年で39歳だと言っていたわ』
「39歳……」
21歳のフェリシアとは18歳差となる。
『フェリシア、もしかして、今お付き合いしている人いるの? 貴方にしちゃ、なんだか歯切れが悪いわね』
能天気でもさすが母親だ。娘の心情を見抜いていた。
「うん、いるよ。悪いけどママ、お断りして」
『分かったわ、断っておく。貴方に何の相談もなく話を進められないから連絡しただけよ。気にしないでね』
「気にしてなんかいないよ。わざわざありがとう」
フェリシアは通話を終えた。
娘の雰囲気を察したのか、母親は付き合っているのが誰か、聞かなかった。聞かれても、ちょっと困る。
「ミラン第三王子殿下だよ」
と正直に言ったら、さすがに能天気な両親も驚くだろう。以前母親が「リステアード王太子殿下直々に魔法師団にスカウトされて、これで貴方も王太子妃かと思ったのに」と冗談を言っていたことがあるが、王族と恋人同士だなんて、冗談と本当は違う。
ミラン殿下と惚れ薬作りをしていたときから、忙しいことを理由に実家に帰っていない。我ながら不精だと思う。同じ王都に住んでいるんだから、そろそろ顔を見せないとと、フェリシアは思っていた。
帰るんなら、ミラン殿下との関係を言うべきだろうか。ミラン殿下に相談した方がいいだろう。
ミラン殿下は、この国の王子。普通の身分の方じゃない。
フェリシアはそんなことを考えつつ、魔法師団の制服に着替え、フェリクス・ブライトナーとなり、王宮の廊下を歩いていた。毎朝行われている魔法師団の自主練に向かうためだ。
そんなことを考えつつだったので、廊下の角を曲がったところで誰かとぶつかってしまった。
「あいたたたた! ほ、骨が折れたあああ!」
ぶつかったのは老女だった。ぶつかった反動で転がった老女は、転がったまま喚きだした。フェリシアは急いで助け起こす。
「申し訳ありません、マダム。考え事をして歩いていた私が悪いのです。今治癒しますから」
フェリクス・ブライトナーとしてサッと老女の傍に膝をつき、治癒魔法を発動させようとした。「どちらをお怪我されました? ……っと、貴方は……」
そこまで言いかけて、フェリシアは口をつぐんだ。
占い師のおばあさん……! どうして王宮に?
以前、魔法師団のマスコット的存在な魔物、ポン助が王宮から逃げ出したことがある。
フェリシアはリステアードからポン助の捕獲を命じられ、王都に繰り出したのだ。
探しているあいだにミランと偶然出会い、ポン助を捕獲し、王宮に戻ろうとしていたところ、途中ミランが占い師の老女を見つけ「占ってもらおう」と言い出したのだ(詳しくはアフターストーリー、両思い・3をご覧下さい)。
その占いによって、フェリシアは自分の心の不安と向き合うことになった。
最終的に、ミランと両思いになるためのきっかけになった、と言ってもいい。
と、いうことは、このおばあさんは、私とミラン殿下の恋のキューピッド!?
「ちょいと男前なお兄さん、治癒はいつ始まるんだい? ぼうっとしてないで、早くやっとくれ」
フェリシアは老女の言葉にはっとした。
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