十八日目:「群青」『群青に呪われたまま』

 毎日毎日過去を振り返って過ごしている。

 俺にはそれしかすることがない。

 絡まった術式を解きほぐす仕事も最近は依頼が来ないし、勇者手当で生活している。

 

 勇者手当というのは引退した勇者が受けられる支援で、新たな仕事が決まるまで受けることができるという破格の手当だ。

 国民からは「極潰し手当」だとか、「廃人養成年金」だとか言われている。

 まあそんなことはこの際どうでもいい。

 

 現状、過去を振り返るしかすることがないのが問題だというのだ。

 ■年前、倒した魔王の呪いで俺は狂気にとらわれてしまった。

 一か月に一度、パーティメンバーだった魔法使いが薬をまとめて持ってきてくれる。

 それを毎日飲むことで、狂気を抑えている。

 だがその薬には副作用があり、飲んでいるととても眠くなる。

 夜に薬を飲んで寝て、次の日の夕方までずっと眠っている。起きている時間より寝ている時間の方が多い。

 そんな状態でできる仕事もなく、魔法使いが斡旋してくれる「絡まった術式を解きほぐす仕事」をたまに受けつつ勇者手当で生活しているというわけだ。

 

 毎日過去を振り返る。

 村から浮いていた少年時代に、排斥された勇者時代。

 魔王を倒して呪いを受けたのも自業自得だと言われている。

 この国で勇者というジョブは好かれていない。

 ろくな仕事もしないのに税金を吸い尽くすゴミだと国民は言う。

 

 幼少期、漠然と「俺は将来勇者になるのだろうな」と思っていた。

 王都に出、術式をまとめる仕事をしていた18のときに託宣が降り、俺は本当に勇者になった。

 運命なのだろうし、仕方がないと思っていた。それに、自分に相応しい仕事なのだとも思っていた。

 旅のパーティは俺一人になる予定だったが、村にいたとき友人だった魔法使いがついてきてくれることになり、二人で旅をした。

 そうして魔王を倒したはよかったが、俺は最後に呪いを受けてしまった。

 狂気の呪い。

 呪いが発動するまでにはやや時間があった。その間に魔法使いは古い文献を調査し、薬を作ってくれた。

 そんなわけで俺は街はずれの空き家に住んで、毎日魔法使いの薬を飲んで暮らしている。

 

 毎日毎日夢を見る。

 好きではない過去の記憶をさらに悲惨に改竄して提供される悪夢だ。

 おそらくこれに呪いは関係しておらず、俺個人が抱えた嫌な過去や心の問題によるものだろう。

 魔王を倒した後に広がった群青色の空を思い出す。

 たった一瞬の平穏だった。

 すぐに呪いを受けたから。

 

 起きている時間は全て、夢の記憶の処理と過去の回想に費やされる。

 限りなく無駄だ。

 しかし勝手に思い出されてしまうものは仕方がない。

 本当は全て消してしまいたかったが、そういうわけにもいかない。

 魔法使いが薬を作ってくれているからだ。

 あいつがいなければ、俺はとっくに全てを消す選択を取っていただろう。

 魔法使いは無口だが、別れ際にはいつも「お大事に」と言う。

 その言葉だけが俺の生活における「いいこと」だった。

 

 だがわからない。

 狂っているのは果たして俺なのか、世界なのか。

 それとも俺はもう全て狂気に呑まれてしまっていて、本当の俺は……

 いや、やめよう。

 正気を疑っても仕方がない。

 調子が悪いときは早めに寝るに限る。

 そうして俺は布団を被り、羊の数を数えた。

 

 そんな話。

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