異星生物ズァンゴの体液でラリった世界のカタストロフ

コンクリート・ジャングル

廃墟と発電所と死体とズァンゴ

 第1話 ラリったおっさんのサイン入り紙オムツ



 事態の重大さに人々が気づいたのは、公共安全管理委員会の議長がラリって、自身のサイン入り紙オムツを世界の全市民に配布し始めてからだ。

 全裸に紙オムツを頭にかぶった姿で定例会見に現れた議長ケヤキ・ラ・スバルは、若干40歳で世界の治安を任された男。

 各方面から支持を集め、ファンも多かった。

 

 彼は言った。

「俺な、久しぶりにオムツにうんちしたらめっちゃ気持ちよかってん。泣いてママを呼んでな。また取り替えてもろうねん。みんなもやってみたらええで。オムツあげるから、サイン付きで」

 

 会見の後、彼の尿からはごくごく少量の幻覚剤が検出された。

 問題となったのはその幻覚剤の出所で、つまり、その幻覚剤はかつて絶滅した(——それも当の公共安全管理委員会が主導で駆除した)はずのズァンゴと呼ばれる生物の体液から抽出される薬物だったのだ。


 間もなくして、議長邸宅の給仕が食事に当の幻覚剤を混ぜていたことが発覚した。給仕は、友人から譲り受けたと供述しているが、その友人はどこから入手したのかはわかっていない。

 

 いずれにしても、過去に殲滅したはずの生物がまだ生きているかもしれないという可能性を突き付けられた体制は大いに動揺した。

 彼がクビになった後、公共安全管理委員会の目下の仕事は、ズァンゴの生き残りの捜索と薬物の取り締まりが主となった。

 研究者の間では、数か月前に東京に不時着し壊滅的被害をもたらした地球外生命体のヴォルクリンがズァンゴの種を持っていたのではとの見解も飛び交っている。


 ちなみに、公共の電波でフルチンを晒して職を追われるまで、ケヤキ・ラ・スバルのサイン入り紙オムツの配布命令は粛々と実行されていたので、全市民10億の半分にはサイン入り紙オムツが無事届いていたようである。

 

       




 



 



 



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