スケーターズ・ハイ(中)
小泉藍
インターミッションⅡ
第1話 下位スケーターは最下位ダンサー
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一九九一年八月、アメリカ・メイン州ポートランドのロチェスバレエ団付属学校で開催された入学試験において、約四百八十名の全受験者中、オリヴィエ・メルメは技術表現全てにおいて首席だった。
リアム・ブリュネの成績は、バレエ試験の全ての科目において最下位だった。
リアムの父はポートランドの港沿いにある中華料理店の跡取りだった。
だがリアムが母の胎内にいる間に店のウェイトレスの女性と浮気をし、結局リアムが生まれて三ヶ月後に離婚することになった。初めての妊娠と出産で妻が夫を構い付けなくなり、不満になった男がよその女に走るというよくあるケースだった。
リアムの母は慰謝料以外の金は受け取らない代わり今後一切息子を会わせないという条件で離婚した。かなり高額の慰謝料を頭金にして市内に小さなコンドミニアムを購入し、育休があけると元の勤め先であった水産会社に復帰して働き始めた。
三歳になるとリアムは、家近くのリンクに付属するスケートクラブに保育所代わりに入れられた。
母は別にスケートが好きだったわけでも何でもなかった。近所にあったのがプールならリアムは水泳をしていただろうし、体操クラブなら体操をしていただろう。
こうしてリアムは「ポートランド・アイスパレス」に出入りするようになった。
決して優秀な選手だったわけではない。十二歳でスケートをやめるまで、小学生の全国大会である全米ジュブナイルには一度も出場できなかったし、良い選手になれるかどうかの分かれ目であるというトリプルジャンプも、練習でさえ降りられたことはなかった。
多くの子供たちが苦手とするコンパルソリは比較的得意だったが、これもコーチに練習するよう言われ、反発する張り合いもないから黙々と従っていたというにすぎない。
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