AC501年

@wizard-T

シロモノの差

「先輩たちはあの最終戦争の地に行ったんですよね」

「そうね、今は模様の研究をしているって」


 最終決戦の地からほんの数千キロ東にあるその町では、二人の男女が先輩たちの話をしていた。彼らがこれからさらに名を上げて行くのだと思うと、彼らは正直悔しかった。

「で、どうなんです?」

「どうやら模様の付いた布を身にまとい、体を覆い隠していたらしいよ」

 その上でのその「研究成果」に、二人はため息を吐いた。


 当然ながら二人とも肉体を白い固形物にさらし、その涼感を楽しんでいる。かつて雪の多い都市として知られたその町も、今では人類の数ある町の一つに過ぎなかった。


「しかし布をたくさん囲えば囲うだけ、この空気を味わえなくなるんだよな」

「損ですよねー」

 男は十二歳、女は十五歳。



 かつての「人類」ならばあってもいいはずの毛は、なかった。

 そしてその部分に毛が生える事は、一生涯ない。


「まあそれより私たちの研究よ」

「そうですね」



 男女二人は、建物の中に入りノートを開いた。



「かつての自称人類のそれは既にかなりの数が集まっているわ」

「復元作業もですね」


 お互いが男女であることを示す部分を揺らしながら、大真面目な顔をしてノートを叩き合う。


「しかしびっくりしますね」

「何が」

「ぼくらとほとんど変わらないんですから、見た目だけは」


 男の身長は159センチ、女の身長は162センチ。かつての自称人類のそれとそんなに変わらない。



 しかしその骨格から復元された肉体は、自分たちのそれよりえらく貧弱だった。


「何度検証しても、この肉体で出せる最高速度は45キロですね。しかも瞬間最大速度で」

「長距離となると21キロだって、私たちの数分の一ね」


 彼らも「先輩達」も特段運動神経が優れている訳ではない。


 かつて海峡を挟んでいたとされる都市に向かうのに、ほんの一時間ほどゆっくり走っていればたどり着ける。

 海峡その他により直線距離通りとはいかないにせよ、何らかの手段を使って延々

四時間以上かけていたとか言うデータを見せられた時には二人とも正直愕然としていた。




「それにこれらの成分を見てくださいよ」




 その彼らから出るシロモノ。




 自分たちの棒及び隙間、また尻の穴から出るそれと同じシロモノ、のはず。




「アンモニアに、ビリルビン……」

「しかも一日に1から1.5リットル、及び200グラム前後……それらの成分も私たちには滋養強壮の材料なのに」

「かつて尿素クリームなる美容品も存在したようだから近いのかもしれないですけどね」



 彼ら二人が1日で出す量は、200ミリリットル及び0グラム—————。



 1.5リットル及び200グラムと言うのは、一週間の量である。


「かつての人類ってのはえらい非効率なんだろうな」

「その物質を畑に撒いて栄養にしていたとか言うのは同じみたいだけどね」

「固形物ならともかく液体の方を?」


 少女の右手が男子の頭を捉えた。

 決して怒りや憎しみはなく、あくまでもかつてマンザイと呼ばれた演芸を思わせるそれの手。


「液体とか固形物とか何を気取ってるのよ、おしっこにうんこでいいじゃないの」

「大小便でいいと思うけど」

「はあやれやれ、男の子って恥ずかしがり屋だよね」


 二人して笑う。


 こんな事で笑える程度には、彼らは純粋だった。



「まったく、それでその、大小便、いや糞尿の分析だけど」

「それで」

「とりあえず遺跡から再現したのがあるから見てくれる?」


 二人は相変わらずそれらの物体の排出口をさらけ出しながら歩き、部屋の中に入った。

 


「これが男性用。で。こっちが女性用及び、排便用……」



 木で囲まれた部屋の中に並べられた、いくつもの便器。

 少女により並べられたその物体に、男子は圧倒されたように目を見開いた。


「とりあえずどうやって使うか……」

「形状はおおむね同じ様だけどな」

 形状そのものに、変化はない。


 とりあえず男子は棒をつかみながら男性用の前に立ち、女子は女性用のそれに座る。


 いつも通りの、使い方だ。


「しかしこれこの後どうするんだろうか」

「そりゃ、中身を出すんでしょう」

「いやそうじゃなくて、この穴は」

「その穴からどこかへつなぐんでしょう」

「いわゆる排水管、と言うか廃水なのか」

「そりゃいらない物だから出すんだろうけどね」



 彼らの出す液体には、不純物がほとんどない。


 99.9%が過剰なH₂Oであり、0.1%がそれ以外の不純物だった。

 0.1%ではまったく自然に影響はなく、文字通り透明な水。

 そんな物をわざわざ廃棄する必要もなく、まともな使い事こそされないにせよ文字通り垂れ流しにされていた。一応医学ではその液体の研究もされていたが、少なくとも現状においてそれが問題となる事はない。




 二人は力を抜き、液体を垂れ流した。


 H₂Oは容器に向かい、消えて行く。



「ああスッキリした……」

「この後はどこに行くのかな」

「面白そうですね、次はこのテーマで行きますか」



 そのH₂Oがどうなるか、二人とも、全く気にしない。


 海に流れようが、畑に撒かれようが、回り回って口に入ろうが、どうでもよかった。




 ただ、詩的な事ばかりが浮かんで来ていた。

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