6.今日も今日とて散歩します
ちなみに、まかないでのイノシシのステーキの付け合わせはノビルを洗ったものにみそがついていた。これがさっぱりしていいんだよね! ノビルの天ぷらは夕飯に出してくれるみたい。イノシシのステーキも私の分は醤油漬けにしてあるなど虎雄さんの愛を感じた。そして私のごはんにはちゃんと香の物がついた。デザートは変わらなかったけど、夜は大学イモを出してくれるらしい。
「ああもうおいしすぎて太っちゃう~!」
その前にほっぺたが落ちるかも。
「太っても花琳はかわいいよ」
ということは今は太っていないということだ。私は内心ガッツポーズをし、明日もまた畑仕事もしっかりしようと思った。
トラ君にはミルクをあげたり虎雄さんが用意した離乳食を食べさせてあげたりする。イノシシもそうだしトリのササミもよく食べる。(もちろんミンチにしたものだ)食費がとんでもないことになりそうだけど、そこらへんは虎雄さんがきっちりしてくれているから大丈夫だろう。とても頼りになる旦那様なのです。私、おんぶにだっこすぎじゃない?
午後はまた虎雄さんとトラ君と散歩をした。ところどころきのこが生えているのが見えた。
「虎雄さんはきのこは採らないんですか?」
「……毒きのこなのかそうじゃないのかわからないからね。それにきのこなら下山君が山の洞穴で育てているだろう?」
「……言われてみればそうですね」
家兼レストランがある真ん中山の、麓の中間辺りに洞穴があって、そこで下山さんがきのこを育てているのだ。でも下山さんはきのこも食べないらしい。面白いなって思う。
「あんなもの食べるヤツの気がしれない」
とかぶつぶつ言いながら、下山さんは丁寧に野菜もきのこも育てている。前に虎雄さんとその様子を見て二人でくふふと笑んだものだ。自分が食べなくてもあんなに愛情をかけて作っているからおいしいんだなと思った。
そういえば、とふと思い出す。
今日来られたお客様って……。
「……虎雄さん、失礼ですけど今日来られたお客様って、もしかして隣村の夏祭りで屋台を出されてた方なんじゃ……」
「よく覚えていたね」
虎雄さんがにっこりした。正解だったらしい。
「そうなんですね。だからトラ君のこと知ってたんだ……」
トラネコだからトラって言ったのかな。私の名づけも適当すぎたかもとちょっと反省。でももう「トラ君」て声かけると返事してくれるから改名する気はない。一番前を歩くトラ君は時々私たちを振り返ってくれる。その仕草がまたとてもかわいいのです!
「うん。またいらっしゃるかもしれない。その時はよろしく頼むよ」
「はい」
って言っても私は給仕ぐらいしかできないんだけど。でもトラ君の様子を見に来てくれるなら、しっかり愛情かけて育てないとね。
またもう一つ思い出した。
「虎雄さん、隣村の養鶏場っていつ行ったんですか? 私全然知りませんでした」
拗ねたように言ったら苦笑された。
「トラを連れて行くわけにはいかなかったからね。一昨日花琳とトラが昼寝している間に行ってきたんだ」
「ああ~!」
三食昼寝付き生活は伊達ではない。トラ君がうちに来てから私はついつられて一緒に昼寝してしまったりする。それでも虎雄さんは嫌味を言うでもなく優しい。まぁ私が昼寝をしてしまう理由は寝不足ってのもあるんだけどね。なんで寝不足かって? 聞かないでよもう!(誰も聞いてない)
「そうだったんですね。確かに養鶏場にトラ君は……だめですよね」
「もう少し大きくなって分別がつけばいいんだけどね。万が一建屋の中に入ってしまったらたいへんなことになるから」
「ですね~」
まだまだ赤ちゃんだから置いていくわけにもいかないし。
どうしてもペットがいると行動の制限はあるけど、とてもかわいいからいいと思う。誰も信じてくれないけど、私は人見知りだから誰かと面と向かって交流したいとも思わないし。引きこもりまっしぐらだなぁ。山の中では動いてるから健康だけどね。
「あれってノビルですか?」
緑の、ニラみたいな植物を見かけて指をさした。
「ああノビルだね。採ろうか」
そう言って虎雄さんはさっと動き籠に入れてくれた。そうしてから虎雄さんは南の方を見やる。
トラ君も同じ方向を見て、
「に゛ゃー!」
と鳴いた。
「……何かいるな。家に戻ろう」
「はい」
素直に踵を返して帰宅する。ここは、私にはわからないなにかがあるのだ。
「鍵をしっかりかけて昼寝でもしていなさい。もし扉を叩くものがいても開けてはいけない。呼び鈴も電話もだめだ。わかったね」
「はい」
メールとかLINEはいいみたいなんだけど、音が鳴るものはだめなのだと虎雄さんは言う。私はトラ君を抱えて、土間でトラ君の足を洗った。身体についている葉っぱなどを丁寧に取ってから一緒に畳でごろんとなる。
「トラ君、この山って不思議だねえ」
話しかけるとまた、
「に゛ゃー!」
とご機嫌で返事をしてくれた。とってもかわいいので抱きしめて毛に顔を埋めてぐりぐりした。こんなことをしても怒らないトラ君は健気だし、顔をべろべろ舐められてあははと笑った。
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