【完結】虎又さんとお嫁さん~イージーモードな山暮らし~
浅葱
本編
プロローグ~夫とトラネコと山暮らし中
麦わら帽子を被って、首には手ぬぐい。
朝晩は少し涼しくなってきた気がするけど昼間はまだまだ陽射しもきついし暑い。それでも町の暑さよりはましだと思った。作業着の下はとっくに汗だくなんだけど。
「ふー……まだ十時なのになぁ……」
ぶつぶつ言いながらツルムラサキを収穫する。季節的にはそろそろ終わりなんだけど、この畑ではいろんなものが採れるみたい。
「花琳(かりん)、お茶にしよう」
「はーい!」
大きな平屋建ての家の縁側から声がかかった。低くて渋い、私の耳を震わせる声。私の大事な旦那様だ。
「今日は何を収穫したんだい?」
「今日はツルムラサキが採れました」
「ふうん?」
残念ながら旦那様―山唐虎雄(さんとうとらお)さんは野菜が苦手だ。いつも生に近い肉ばかり食べている。でも私のごはんも虎雄さんが作ってくれている。いつもおいしくて幸せだ。
「これはどうやって使うのかな」
「うちは湯がいておひたしにしてましたけど、他にも調理法があるかもしれませんね。ネットで調べてみようっと」
「そうなんだね。……ところで花琳はいつまで私に敬語を使うのかな?」
「え……」
顔が熱くなった。
だってまだ慣れないし。まだ結婚して三か月で、しかも出会ってからだってまだ半年も経ってない。
「に゛ゃー!」
「あ、トラ君」
答えに詰まっていたら足元にトラネコのトラ君がきた。なんかよこせって言ってるのかな? 猫ってかわいいけどよくわかんないんだよね。生態とかホント不明だ。しかもこのトラ君、手足が太くて本物のトラっぽく見えるんだよねぇ。顔も大きいし。
隣村の夏祭りで買ったんだけど、屋台の人は「かわいいトラネコですよ~」って言ってた。すんごくちっちゃくてかわいいから旦那様におねだりして買ってもらったんだけど、旦那様は何か言いたそうな顔をしていたように思う。
トラ……じゃあないよね、たぶん。
「そろそろ離乳食だな」
旦那様が持ってきてくれた哺乳瓶でミルクをあげた。多分まだ生後二か月もいってないんだろうけどずっしりと重い。
「猫の離乳食ってやっぱり魚なんですか?」
「これには生肉のミンチでいいだろう。私が用意するから大丈夫だ」
「……私がほしいって言ったのに、すみません……」
「花琳は気にしなくていい」
旦那様はとても機嫌がよさそうだ。今日はお客様はこないみたいだからのんびり過ごせるはず。
私はそっと旦那様に寄り添った。
この山に引っ越して二か月。
優しい旦那様とトラネコがいて、私はとっても幸せだなぁって思った。
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山暮らしスピンオフです。
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