第二章 南大陸
第3話 現状把握とこれからの方針
「よし、早速ユニークスキルのマップを使って現在位置を確認しよう。」
現在地は南大陸の南端部、都市から都市への街道に面した林の中だ。一番近いのは海辺の都市で徒歩にして1時間程度と言ったところだろう。
「何はともあれ、一旦都市へと向かい拠点を確保しようよ。不足している情報や物資も集めたいしさ。」
「それと、アイテムボックスからいきなり物を取り出すと、目立ったりするよね。お互いバックパックは持っているから、最低限のものはいくつか移しておこうか。」
「そうだな。準備出来次第出発だ。」
二人は林を抜けて街道へ合流し、付近の港湾都市へ向かうのであった。
この世界は中心に四国程度の島と、それを取り囲むようにオーストラリア級の広さを持つ大陸が東西南北に1つずつ海に隔てられて存在している。
東大陸には北半分がエルフの諸部族連合体が、南半分がドワーフが集まり国家を形成している。
西大陸は獣人たちが国家を形成している。
南大陸は人類が国家を形成している。
北大陸には魔族が国家を形成している。
中央島には常に霧が立ち込めており、その全貌が見渡せないこと、謎の力が働いて一定の距離内には近寄れないことが知られている。
各大陸の国家間では争いは特に無く、人・モノ・金の流れもそれなりにあり、各大陸でも主要民族以外に他民族の姿もちらほらと見ることができる。
最初に人類国家圏である南大陸に転送されたのは、ある意味チュートリアルに近いものがあるのだろう。
1時間程歩いていると都市が見えてきた。
「潮風が気持ちいいな。」
「そうだね。」
先を見渡すと、町の入り口に屯場が設けられ、衛兵と思しき人間が4人立っている。入り口付近に近づくと早速声をかけられた。
「お前ら、見ない顔だな。ここは港湾都市ターポートだ。確認するが、ここでの目的は何だ?」
咄嗟に俊充が答える。
「僕たちは風光明媚と言われたこの都市に観光に訪れました。」
「そうか、ここは見どころも多いし食い物も旨い。期待してくれ。それから規則だから過去に犯罪を行ったかどうかがわかる“罪科判定の宝玉”がある。それに触れてもらうぞ。」
屯所に入り、言われた通り宝玉に手を触れる。二人とも薄青に光った。薄青だと犯罪歴無しで、赤く光ると犯罪者とみなされる。」
「問題ないようだな。それでは通ってよし!」
「所で、お聞きしたいのですが、おすすめの食事ができる宿屋はありますか?」
「そうだなあ。ここの入り口からの通りをまっすぐ行くと大広場がある。大広場からは十字路が伸びているから、そこを右に、つまり西通りに行くと“渚の波止場亭”という宿が見えるはずだ。そこは宿泊料も程々ながら、居心地も良く、周囲の治安も問題無い。飯は大して旨くないがな。自分としては真っ先にお勧めする。」
「そうですか、ありがとうございます。」
「ああ、この都市を楽しんでいってくれ。」
二人は大広場へと向かう。広場は人々が多く行き交っており、外縁部には屋台や露店が所狭しと出店している。空腹を誘う匂いがあちこちから漂ってくるが、体を休める拠点を確実に確保するためにも、誘惑を振り切って先に宿へ向かうことにする。
5分ほど歩いていると、“渚の波止場亭”の看板が見えてきた。早速中に入る。
カウンターには年若い女性が受付をしていた。
「いらっしゃいませ。渚の波止場亭です。」
「今日からとりあえず7日宿泊したいが、部屋は空いているか?」
「はい。空きはあります。2人部屋で大丈夫ですか?」
「俊充、それでも良いか?」
「僕は大丈夫だよ。2人部屋でお願いします。」
「一人当たり一泊50銅貨となります。それから、食事はどうなさいますか?この宿では、朝食・夕食をお出しすることができます。朝5銅貨、夕10銅貨かかり、定食のみとなっています。お酒は夕食時のみお出ししていて種類は多くありません。この宿の向かいに“赤ひげ酒場”という酒・食事の種類も豊富な酒場食堂がありますよ。お勧めです。私が言ったことは宿の人には内緒ですよ。」
「じゃあ、夕食はそこで食べるよ。朝だけ食事を出してくれ。それから、風呂はあるのか?」
「当宿はいわゆる中級クラスなので、風呂の施設がありません。お湯と拭き布はサービスでお出ししていますが。それから、中央広場からの西通りを更に進みますと公衆浴場がありますので、どうしてもという方はそちらを利用していますね。」
「そうか、ありがとう。会計を頼みたい。」
「お二人で計7銀貨70銅貨となります。」
宿泊料を支払うと、鍵を渡される。
「お部屋は2階の202号室になります。ありがとうございました。」
部屋に入ると、広さにはややゆとりがあり、ベッドが2つ、机が一つ、テーブルとシングルソファーが2つと中々のものだった。
「まだ時間は昼前だし、これからどうしよう?」
「折角だ。受付のお姉さんに都市のことをいくつか質問してから散策に出かけるとしようか。」
二人はバックパックを背負いなおし部屋を出る。受付に着いたその時丁度鐘の音が鳴った。
「お姉さん、今の鐘は?」
「今は12の鐘ですね。丁度お昼です。」
「仕事に支障が無いようなら、この都市のこと等をいくつか教えてもらえないだろうか?」
「良いですよ。」
時間については、地球と同じ24時間365日で成り立っており、都合よく曜日の呼び名も同じだった。時間を知るには置時計、懐中時計があるが魔道具と言うこともあり、かなりの高級品で一般人は手が出ない。そのため鐘の音で時間を知らせているとのことだ。ただし、夜22時以降から朝5時までは鐘は鳴らない。
幾つか質問を繰り返した後、礼を言い、やや遅めの昼食をとるために大広場の屋台へと向かい、屋台飯で腹ごしらえをした。
またすぐに宿の部屋に戻ると、まずやるべき作業をこなすことにする。鐘の音と腕時計の時間を同期させた。次にスマートフォンとPCが通信できるかどうかを調べたが、やはり電波は通じず、インターネットはおろか、通話も利用することができなかった。
「端末の中に、何か旅に役立ちそうな情報は入っているか?」
「残念ながらそれはないね。僕はPC派でモバイルノート持っているけど、プライベートな品だから基本会社に持っていけないし、持ってくる必要も無いしね。」
「俺のほうも似たようなものだ。今持っているPCは会社のものだし、今回の出張に必要なデータしか入っていない。完全に置物状態だな。」
とりあえず、昼飯後から回った場所はその場で地図に登録しておいたが、念の為、その場所とその場でこなしたことについておさらいする。一通り終わってから、今後の方針を決めることにした。
「地図情報によると、各大陸の大体中心部に地脈の集合点があるな。ちゃんとランドマークされている。拡大するといずれも神殿のような建物があること、辺鄙な場所にあることは共通している。神殿だからか、付近の町からは道が通っている。山歩きの可能性はあまり無さそうだが、準備は必須だな。」
「どの順番で回ろうか?僕としてはファンタジー物の定番エルフやドワーフが気になるから、反時計回りの南→東→北→西の順にしたいね。」
「その方針でいいだろう。俺には特にこだわりは無いからな。」
二人は頷く。
丁度18時になり鐘が鳴る。
「続きは明日にしよう。腹が減った。“赤ひげ酒場”へ行くか。」
向かいの酒場のドアを開ける。中は大広間になっていて、テーブル席が20程でその大半が埋まっていた。
「ちょうどギリギリのタイミングかな?」
「いらっしゃい。人数は2人?まだ席は空いていますよ。」
年若い可愛らしいグラマーなウェイトレスが訊ねてくる。他にも2,3人のウェイトレスが給仕をしていた。
「ああ、お願いするよ。」
すぐさま壁際の席に案内される。
「品書きはどこにあるのかな?」
「ごく定番のものに関しては左右の壁に木札で下げています。それ以外のものはその都度聞いてください。」
「今お勧めのものは何だい?」
「ここは港町なのでもちろん海産物がお勧めです。もちろん肉類もありますよ。色々あってどれもお勧めですがお任せコースもありますよ。」
「それも面白そうだね。外れは無いと信じて海産物のお任せコースにします。お酒もそれなりに飲みたいから、パン類は要らないよ。それから宏、酒はどうする?」
酒の木札を一通り眺めて言う。
「じゃあ、俺はエールを。」
「僕もエールで。」
「わかりました。少々お待ちくださいね。」
少々待っていると、ウェイトレスが木のコップに入った酒と料理を手にやってきた。
「お待たせしました。一品目のフィッシュアンドチップスと、エールです。」
一通り置いて去ってゆく。
「おおっ?良い出だしだな。フィッシュアンドチップスとは。ボリュームも満点だ。とは言え大事なのは味だ。」
宏が早速一つつまむ。口の中にジャガイモのホクホクとした食感と、適度な塩味が更に食欲を刺激する。
「これは当たりだ。次は酒だな。」
「そうだね。旅の始まりと安全を祈願して、乾杯!」
二人はコップを合わせ、早速口に流し込む。
「「…微妙」」
「味はともかく、ぬる過ぎるのがいかん。」
「そうだ。こっそり魔法で冷却するのはどう?」
「そうするしかないな。だが、昼間から散策して色々見たが、魔法使いは多くはない。バレてもあまりいい事は無いからこっそりやらないと。」
運よく壁際の席だったこともあり、目立たずに冷却できた。
「「再度乾杯!」」
先ほどとは違い、スムーズにのどを通ってゆく。麦の風味が心地よい。ハーブも入っているかな?
「醸造酒は温度が重要だな。味わいがまるで違う。現代のもの程では無いにせよ、十分飲めるな。」
「うん。そうだね。宏も聞いていたと思うけど、この都市近郊ではエール、ワインが醸されているから、鮮度も比較的良いほうなんだよね。」
「地産地消は素晴らしいな。さあ、本格的に食べるとしよう。それから魚フライにはまだ手を付けていなかったな。」
「では早速、魚フライを食べようかな。これは美味しいね。塩味だけじゃなく、アクセントにわずかな香草の風味も感じるよ。」
「本当だ。味からして真鱈かな?後、付いてきたモルトビネガーを少しかけると味変出来て飽きがきにくいな。」
先に杯が空になる。すぐさまウェイトレスを呼び、酒を注文する。
「所で、ワインはありますか?」
「ええ、ありますよ。今日のお勧めは蔵元から来たばかりの白ワインになります。」
「じゃあ、そのワイン2杯とエール2杯で。」
「かしこまりました。」
再度酒がやってくる。追加のエールを飲んでいるうちに、フィッシュアンドチップスの皿が空になった。と同時に、次の料理がやってくる。
「お待たせしました。2品目の牡蠣の殻付き香草焼きと、3品目の牡蠣のクリームパイになります。ひとまず食べ物は以上です。パイは熱いから気を付けて。」
大皿に小振りながら20個はありそうな牡蠣と、大きな陶器の器で作られたパイ、これを平らげたら腹一杯になるな。牡蠣の香草焼きに手を伸ばす。
「真牡蠣ではないな。ヨーロッパ系に似ていると思しき品種か。味が濃厚でいいな。」
「クリームパイも、牡蠣の出汁とホワイトソースとバターの合わさった風味が何とも言えず美味しいよ。パイ皮のサクサクした食感も楽しいね。具の牡蠣も沢山入っていて満足度が高いよ。」
それから冷やしたワインに口をつける。
「ワインも酸味こそ強めだが、香り、味共に飲めるレベルだな。意外にも。」
「この都市にいるうちに、新鮮なエール、ワインも買い付けておこうよ。ワインは良い赤が手に入るといいな。」
「賛成。幸いにもアイテムボックスもあるし、時間停止機能を使えば鮮度の問題も解決だ。」
こうして、楽しい夕食のひと時が過ぎてゆくのであった。
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