5
君は、ゆっくり音の出ないようにトイレから脱出する。
父と母の口論する声の聞こえる居間のドアを見つめながら、玄関へ。
靴を履き、音の出ないよう細心の注意を払いながら、引き戸を開け外に出る。
吹き足差し足、身を屈め家から脱出に成功した君は、
「ふぅうう……」
安堵のため息。
緊張からの解放から、顔がほころんだ。
そして、手提げカバンの中を見て、まだ見る事の出来ない、あまりに魅力的な表紙のエロ本に向かって、
(後でね)
と詫びるように心の中で声を掛ける。
そして君は、どこかで時間を潰そうと、門の横に駐車してある自転車にまたがり町をぶらつき始めた。
すぐに良いところがあった。
ジュースなどの自動販売機がたくさん並び公衆トイレがある、だだっ広い空き地。
住宅街から出たところの国道を走る車を狙ったものだろう。
(ここで暇をつぶすか)
と君は自転車を止め、たくさんある自販機を、お金がないので何も買わないが、眺めながら歩いた。
自販機は2列になっていて、国道から見えない裏側は見たことがない。
君は初めて裏に回ってびっくりした。
全身黒のジャージ姿のおじさんが背を丸めて立っていたのだ。
ショッキングピンクの布を持って、それで顔を、拭いているのか、匂いを嗅いでるのか、顔をうずめて立っている。
こっちには気づいていないようだ。
君は、変な人だとおもって、距離を開ける。
その時、おじさんは、ハッと僕に気づき、慌てた様子でどこかへ走って行った。
(なんだったんだ、怪しい人だな……)
君が不振がっていると、ハッと君も気づき、慌てた様子で自販機へと駆けて行く。
(こんなところにエロ本の自販機があるではないか!?)
たくさんある自販機の中に一つだけあるエロ自販機に、君は、
(灯台元暗しっ)
ラインナップを確かめていった。
と、そこへ自販機コーナーの端から「すいません、すいません」とささやくような声が聞こえてきた。
見ると、少年が販売機の陰から顔を出して君を呼んでいる。
何かと思い行ってみると、そこには小学校高学年とおぼしき少年4人がいた。
「すいません、あの、お願いしたいことがあるんですけど」
と、その中のひとりが、少しもじもじしながら、
「エロ本を買ってきてほしいんですが」
と言ってくる。
「なんで俺に?」
「大人の人なら、堂々と買えますでしょ」
(俺を大人だと思っているのか……、まぁ老け顔とは言われるが、それにつなぎ姿なのも大きいか……)
君は面倒くさそうに、
「そんなの、自分たちで好きなの買えばいいじゃん」
「そんなっ、エロ本を買っているところを誰かに見られると、ここに住んでいられない。学校の先生にも当然怒られるし」
真剣な目をして少年が、
「お願いします、買ってきてください」
と1000円札を5枚差し出してくる。
(小学生でエロ本とは、最近のガキはマセてんなぁ……)
さて、どうする。
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◇断らない なら9へ
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