百花繚乱戦乱絵巻~群雄割拠する世界で天下統一を目指します~
山城京(yamasiro kei)
第1話 プロローグ
どこで間違えたのだろうと、最近よく思う。大学時代? 高校時代? 中学時代? いや、ひょっとしたらもっと前かもしれない。
夢を追って上京して、結局どうにもならなくて今の俺はただのフリーターだ。世間から見た俺の評価はきっとどうしようもなく人生に失敗した人間なのだろうと思う。
今更人生をどうこう出来る気もしないし、恐らく俺はロクな死に方をしないだろう。それもいいさと言えるほどに充実した人生を送った訳でもない。
とどのつまり、俺には後悔しかないのだ。
「お疲れ様でした」
いつもの挨拶。心の籠もっていない形だけのそれを口にして俺はバイト先を後にする。
築うん十年のボロアパートの床を軋ませながら、俺は自分の城である八畳一間の部屋に戻る。
冷蔵庫とベッド、机、それから本棚が一つの寂しい部屋だ。それでも、何年もの間慣れ親しんだ我が家だ。床に座ると気分も落ち着く。
「いただきます」
これまたいつの間にか癖になっていた挨拶。上京してきた俺には友人と呼べるような関係の人間は少ない。必然、一日の会話は数えるほどしかない。きっと俺はそれが嫌だったのだろう。気がつけば口にするようになっていた。
カシュッっと音を立てて開いた缶チューハイで、買ってきたコンビニ弁当を流し込む。
「ごちそうさまでした」
食べ終えたゴミをその辺の袋に入れて、煙草に火をつける。スマホを見ながら何度か煙を吐き出していると、今日何度目かの絶望感に襲われた。SNSで学生時代の友人が結婚したと報告していたのだ。
順当にいっていれば俺も定職に就いて結婚をしているような歳だ。なんなら、子供がいてもおかしくない。だというのに……。
「俺は何をやってるんだろう……」
やるせなさが最高潮に達した俺は、スマホをベッドに放り投げて代わりにパソコンを開いた。何をやるつもりもなかったが、とりあえず逃避したかったのだ。動画サイトでくだらない動画でも見ていれば気分を持ち直すだろう。そんなつもりで機動したのだが、
「このゲーム、懐かしいな……」
ふと、デスクトップに表示されたアイコン「百花繚乱☆戦乱絵巻」が目に止まった。
このゲームは俺が学生時代に時間を忘れて熱中していたゲームだ。戦国時代や三国志などの戦乱をベースとした世界に生まれた主人公が、見目麗しい女性キャラクターの力を借りて天下統一を目指すゲームだったように思う。
「久しぶりにやってみるか」
俺は懐かしさに押されるまま、「百花繚乱☆戦乱絵巻」をクリックした。
ゲームが始まった。夕焼け空を背景に「百花繚乱☆戦乱絵巻」というタイトルがフェードインしてくる。同時に、ヒロインの一人がタイトルコールを行った。
試しに「続きから」をクリックすると、過日の俺がやり込んだであろうセーブデータが表示された。
当時の俺は律儀な性格だったらしい。セーブデータそれぞれに名前が書いてある。のはいいのだが、その下に書いてあるプレイ時間を見ると、ゾッとした。
「本当にとんでもない時間をこのゲームに費やしてたんだな……」
戻るを押して再びタイトルに戻る。過去は過去、今は今だ。俺は「最初から」をクリックしてゲームを始めた。
「ああ、そういえばこんな感じだったな」
画面では、主人公のサポートをしてくれる初期キャラクターのエディット画面が映し出されていた。確かここで作成したキャラクターが中心となって、以降チュートリアルが始まっていくのだ。いわゆる秘書的な存在だ。
「さて、いっちょ考えるか……」
髪型は銀髪ロング、瞳の色は琥珀色、右目の下に泣きぼくろ、性格はクール。胸と尻は大きめで、慎重は165くらいにするかな。主人公との関係性は……ご主人様とメイドにするか。
その他特技や出自、細かい部分の設定を終えると、一番大事な名前の設定の画面になった。
「名前は……『ノア』にするか」
キャラクターが完成すると、画面が切り替わった。いよいよチュートリアルの開始である。
『ようこそ、百花繚乱☆戦乱絵巻の世界へ。これからご主人様にはこの世界で野望を成していただきます。現在、世界は戦乱へと突入しようとしています。ご主人様は――』
うんたらかんたらノアが世界観を説明する。俺は過去に何度も聞いているので、飛ばし飛ばしで話を進める。
ノアの説明を聞き終えると、今度は最初の拠点を設定する画面になった。確か、「ヘイゼル」にすると楽に進める事が出来たはずだ。
『それでは、ゲームをお楽しみください』
いよいよゲームがスタートした。当面の目標はヘイゼルの悪徳領主を殺して、その領地を奪い取る事だったはずだ。そうしなければいつまでも主人公君は人に使われる下男である。それでは現実の俺と変わらない。ゲームの中でくらい自由に振る舞いたい。
「とりあえず特攻してみるか……」
何が最適解だったのかはもう忘れてしまったので、試行錯誤が必要だ。どうせ死んでもセーブデータをロードすれば何事もなかったかのように復活するのだからやり得だ。とはいえ、
「あ、死んだ」
流石に護衛が沢山いる領主の元に単独で特攻を仕掛けるのは無謀が過ぎたらしい。あっさりと死んでしまった。
「しょうがない、仲間を見つけよう」
そうして俺は懐かしさに身を任せたまま時間を忘れてプレイした。気がつけば、明日も早いというのに時刻は日付を回ろうとしていた。
「流石に寝ないとマズイな……」
状態をセーブして、パソコンを閉じる。そして残った缶チューハイの中身を一気に煽ってベッドに倒れ込んだ。
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