近所のコンビニ店員さんに「箸ください」と言ったら「私ください?」と勘違いされました、もうどうでもいいので「もらいます」って言ったら本当についてきた件。(G’s こえけん応募作)

藍坂イツキ

第1話「お姉さんと出会う」


 俺の名前は神木政宗かみきまさむね

 今年で24歳のフリーター。


 大学を卒業後、会社に就職するがあまり馴染むことができずに退職。

 しかし、縁あってシナリオライターの活動している。


 そんな俺にはまとまった休みがなく、毎日のように近所のコンビニに通って食料を買い込んでいる。その頻度と年数と言えば今ではどの店員がどの日のどの時間帯にいるのかまで分かっているほどだ。


 別にもの凄くお金があるわけではないがやっぱり便利なコンビニ暮らしがやめられないんだよな。


 あと一年で俺もアラサーになり、体の機能も徐々に下がっていく年齢。親には孫の顔が見たいと言われているが、もちろん彼女など生まれてこの方出来たことがない。


 まったく、彼女いない歴=年齢の俺に。

 この長い長い24年間の人生の中で一度も好きな女の子と付き合えなかった俺に。


 母親は何を求めているというのか。

 そんなに見たいなら妹でも弟でも作ってほしかった。


 悪いとは思っているし、俺も欲しいと思っている。


 だが、ないものねだり。

 すでに諦めていることに何か行動しようだなんて思うわけがないのだ。


「——腹減ったなぁ、行くか」

 

 ロフト下にある作業部屋から出て、7畳一間のワンルームを抜ける。

 玄関で靴を履き、3階建てのマンションの2階から下に降りてから歩くこと5分ほど。


 住宅や駐車場を3つほど挟んだところにあるのが俺がいつも行くコンビニである。それに、今日は金曜日の夜10時前。この時間はとても美人で可愛いお姉さんがレジ打ちをしている時間帯だ。


 別に見計らったとか言うわけじゃないが、誰がやっているのかを考えてると少しだけ気分が晴れるのは否定できない。


 俺も男。

 諦めているが心のどこかでは異性を求めているのだ。


 しかし、コンビニの店員さんと——まして美人なお姉さんと付き合えるだなんて漫画みたいな展開はこの世にないことは知っている。


 むしろ、ボイスのシナリオ書くときにそう言う妄想をするものだからあるわけがないのだ。現実でありえないことを二次元で補うのが人間なのだから。


 とまぁ、御託はここまでにしようか。


 中へ入ると


「いらっしゃいませ、こんばんわ~~!」


 

 と明るい挨拶が聞こえる。レジに立っているお姉さんの声だ。透き通った綺麗な声で、まるで水のせせらぎのような感じがする。


 外見は言わずもがな。腰近くまで降ろしている長い黒髪に、優しそうな二重の瞳。胸ももちろん大きいがあからさまにデカいわけでなく、美しさと慎ましさを兼ね備えている。加えて俺よりも少し背が低いくらいで、スタイルがいい。


 どんな男が見ても満場一致で美人と言えるそんな彼女。

 名前はネームプレートから「ひいらぎ」と言う。


 外見だけではなく声の質もよく、目が合っただけで俺みたいな童貞は余計に好いてしまう。


 だからこそ、あり得ないと頭を振って弁当コーナーへ歩みを向かわせる。


 さてさて、今日はどうしようか。

 昼から何も口にしていないためかもの凄くお腹が空いているし、たまには多く入っているものもいいかもしれない。


 棚に並んでいる特盛カルビ丼弁当を手に取りかごに入れ、飲み物コーナーではブースト用のエネルギーチャージ炭酸飲料をかごに入れる。


 あとは小腹が空いたときの様の軽いクッキーでも入れて、お会計だ。


 ここまで時間にして1分強。

 時短こそ正義だな。


 お姉さんがいつも通り優しい笑みを浮かべながら、レジの読み取り口に商品を近づけてピっピと音を鳴らしていく。


「えーっと、三点合計で1287円になります!」


 小銭がないので10000円を置き、ぺこりと一礼。


「いえいえ、では10000円お預かりいたしますっ……」


 そこで、俺は箸を貰っていないことに気が付き、すぐさま口に出す。


「あっ——えと、箸もらってもいいですか?」


 そう言うと彼女は少しだけ手を止めて、すぐさま返した。


「私ですか?」


「え、あぁ――はい」


 ん、あれ?

 流れで肯定してしまったが今、彼女何か違うこと言わなかったか?


 私……と聞こえた気がするが。


 彼女の目を見るが「はいっ」と笑みを返すだけ。特段、変わった様子はない。


 まぁ、おそらく聞き間違いだろうから……そんなことあるわけないだろう。

 そう思って俺は弁当と飲み物、そしてお菓子と箸が入った袋を手渡しでもらい外に出る。


「やっぱり……そんなわけないよなぁ」


 まさか、なんて思ったがやはり勘違いだったようで溜息を吐く。


 結局、何もないので帰ろうとした――――――――その時だった。





「あのっ—————!」





 後ろから声が掛かったのだった。









 

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