赤い花束をください。
夏木
赤い花束をください。
誕生日に何が欲しい。と聞かれたので、赤い花の花束が欲しいと答えた。
そして彼は約束通り赤い花の花束をくれた。
「……なんで、カーネーション」
「なんか安かったし」
そうだろうね。
「あと、買いやすかった」
「そうだろうね!」
メッセージ代わりのリボンに「ありがとうお母さん」ってついてるもんね!
でもさ、そこは違うでしょ!?
いくら朴念仁だからって分かるでしょ!?
もうこの際、バラとは言わない、せめて他の花にしようよ!
「浮いた金でご飯食べようと思うんだけど、ホテルのコースディナーと焼肉どっちがいい?」
「焼肉。ホテルのコースディナーとか、緊張して絶対味わかんないもん」
即答した。
そんな私に彼は何故か嬉しそうに笑っている。
「やっぱりカーネーションで正解じゃん?」
「どういう意味かな!?」
「食えない高い花よりも、食える肉がいいだろ?」
「……そこはもうちょっと、頑張るところじゃないかなぁ?」
花より団子な自覚は、残念ながら有る。
「そもそも、ホテルのコースディナーって、予約必要じゃない?」
「そっちだったら、来週末に行く予定だった。でも焼肉だろうなって思って、すでに焼肉は予約済み」
さいですか。
考えが読まれて嬉しい様な、悔しいような。
せめて、高いお肉をいっぱい注文してやる。と思ったのに、やってきたのはお気に入りの焼肉食べ放題。
一番高いコースにはしてくれたので、文句は無い。
席について、最初の盛り合わせとドリンクが来る間に、食べたいお肉を選んで注文する。
先にドリンクが来て、乾杯する前にコレ、と言って渡されたのは、紙袋。
なんだろうと見れば、どこかのお土産のお菓子と思われる。
「開けてみ」
開けてみるとそこには可愛らしいバラの形を作ったクッキーがあった。
「わぁ、かわいい!」
「前に土産で貰った事あって。今回欲しいってのが赤い花だったから、食えないヤツよりはこっちだろうな、と」
「うん、まぁ、カーネーションよりこっちが嬉しいかな?」
「うん。赤というよりはピンクだけど、赤と見立てて、二個入りが六個で、合計十二個ある」
「う? うん?」
訳が分からないまま数える。
確かに二個入りが六箱あるね。
「調べて」
「は?」
「赤いバラ・12本・花詞。はい調べる」
「え? あ、はい、ちょっと待って」
スマホを取り出し、言われた通りに検索をかける。
広告を避けるようにスクロールし、ある記事のタイトルに指が止まる。
「受けとってくれるなら、乾杯しようぜ」
「…………」
そんな言葉に、わたしはコップを両手に持った。
顔が、耳が熱い。
「お受け、します」
こつっと差し出されたコップにわたしのコップを重ねる。
彼はまた笑った。楽しげに、というかやっぱり向こうも恥ずかしそうに。
「今度の休み、指輪見に行こう」
「うん。……ホテルのディーナーもそのつもりだった?」
「一応。でも正直、そうなったらオレもいっぱいいっぱいになって、たぶん、ガラじゃないとか言って、何も言わずに逃げたかも」
「そこは逃げないでもらいたい」
「いや無理。たぶん、無理。ホント、ガラじゃ無い」
だから、さ。言葉を繋げたところで、お肉の第一陣がやってきた。
彼はそれを焼きながら、告げる。
「こうやって、肉を焼きながらっていうのがオレ達らしいと思わないか?」
「……ごめん、そこはなけなしの乙女心が、もう少しロマンチックな方が良いと嘆いている」
「あれ? まじ? ごめん」
「うん。でも、コレはちょっと嬉しい」
紙袋の中にある十二個の赤いバラ。
きちんと私が欲しいのが分かってて、選んでくれた。
こんな照れ隠し混じりだったけど。凄く嬉しい。
「カーネーションにも意味がある?」
「いや、あれは普通に、生花を買うの恥ずかしかっただけ」
そんな話をしながら私はもう一度スマホで花詞を調べる。
「今日は無理だけど、あとで、半分個ずつこのバラ食べよ」
「え? 別にいいよ。誕生日プレゼントだし。お土産で貰った時、食ったから美味いことは知ってるぞ?」
「そうじゃなくて、六本の花詞!」
私の言葉に向こうもスマホで改めて花詞を調べ直す。
そして、照れくさそうに頷いた。
「ああ、ゆっくり一緒に食べようか」
十二本の赤いバラの花詞は、結婚してください。
六本の赤いバラの花詞は、お互いに敬い、愛し、分かち合いましょう。
こんな形でプロポーズしてくるのだ。
受けとった十二個の半分、六個は私が食べさせる形で食べて貰おう。
私の愛を受けとって、と。
赤い花束をください。 夏木 @blue_b_natuki
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