どうせ一杯地球はあるんだし

「本日はお日柄もよく、大変喜ばしく存じます。今宵は待ちに待ったオークションの日でございます! 皆様振るってご参加くださいませ!」


 私たちの故郷の星は、最近まで強国の属国だった。土地は痩せ、民草は飢え、皆苦しい生活を送っていた。私も王族の端くれとして、やれることはなんでもやった。孤児院の支援から始まり、公教育の整備、先進星の良いところを片っ端から取り入れていった。

 結果として、念願だった先日の恒星間会議において、私たちの祖星である「HNM=6Y輝星」の独立が承認された。


 そして、初めての会議が終わった後、隣席にいた「LP=21E冥星」の代表のA様からオークションに出席しないかと誘いを頂いた。大星も毎回のように出席している大きなイベントのようで、この際に周りの国とも親交を深めるまたとない機会だった。

「是非ご迷惑でなければ、参加させて頂きたく存じます」

 私は二つ返事で了解した。


  

「未だに慣れませんか?」

 オークションが始まって、未だに手を挙げる事すらできていない私を気遣ったのか、隣星のA様は声をかけてくれる。だが、実際には出品されて商品に興味があっても、手持ちで賄える財力がないだけなのだが。

「えぇ……恥ずかしい話、先日独立が承認された我が星にとって、このような席次の用意すら初めてでして」

「まぁ初回から大きな買い物をする方は珍しいですからね、今回は雰囲気に慣れるのも重要ですよ」

どうやらなんとか誤魔化すことが出来たようだ。ただ、助言の内容は最もだったので、参考にしながら安い品物でも買おうと決めた時だった。


「それでは次の商品! ここから今までとは趣向を変えた品が登場致します!」

司会がそう言うと、A様は待ってましたと言わんばかりに、手をうずうずと動かし始めた。

「何か欲しい物でもあるのですか?」

「えぇ、ここは掘り出し物が多いのでよく買ってるんですよ」

 掘り出し物、ならば他の出品物に比べて安い物が多いだろう。ならこの出品物から何かしらを買えば、誘っていただいたA様にも顔が立つだろう。私も司会の言葉を聞き逃さないように、気合を入れる。


「それではこちらの商品『LLL#RER』をA様が落札と致します!」

「よし!」

 A様は大きく声を張りながら、喜びをあらわにする。商品説明を聞いた限りではそれほど価値がある様には思えなかったのだが、彼にしかわからない良さというものなのだろうか。

「そこまで欲しかったのですね。おめでとうございます」

「あぁ、ありがとう。コレは素晴らしい一品でね、あの開闢星話に出てくる登場人物のメンバーの一人のMEの師匠が作ったと言われる――」

 興奮は冷めやらないのか、A様は私に対して熱弁を振るい始めた。流石に無下にするわけにはいかないが、流石にここまでの熱量を持っていると思っていなかった。適度に頷きつついなすことにした。


「そしてその時MEが言った――」

「では! 本日の目玉商品となります! 正真正銘、こちら本物の『地球』と呼ばれる恒星です! これの支配権を出品致します!」

 その台詞にあれほど熱弁を振るっていたA様も発言をピタッと止まった。

他の参加者も同様に、会場全体がざわめき始める。

「無知で申し訳ないのですが、『地球』ってそんなに価値があるものなのですか?」

 空気が突然一変したため、私は混乱していた。『地球』にそこまでの価値があるとは到底思えなかったからだ。しかしA様は静かに語り始めた。

「いや…… 模倣品ですら市場に出回る事すらないのに、それが本物ときたら、それこそ今までで最も盛り上がるオークションになることは間違いないでしょう」

「何故そこまでの価値があるのですか? 我が祖星ですら、文明レベルで圧倒する事と思うのですが……」

「それは逆なのです、逆に発達していないからこそ、もし『地球』を上手く育てれば、数十億もの労働人口を手に入れることが出来るんですよ」

「す、数十億!?」

 流石の人数に驚いてしまった。確かに惑星を丸々一つ育てるとという手間さえ除けば、その人数を好きに使えるとなると喉から手が出るほど欲しい。だが、その言葉を聞いて、あることを思い出した。


 結局、そのあとは恒星間会議の盟主が史上最高額での落札を行った。参加者は口惜しそうにしながら会場を後にしたが、私は急いで祖星へと帰星することとした。


「えっと…… ここに……」

 貧しかった王城にも、小さいながらも宝物殿は存在する。小さい頃は遊び場所としてこっそり侵入したことが今では遠い昔の様だ。しかし、今はその価値が大きく違う。

「あった!」

 棚の奥に埃を被って出てきたのは、『地球』だった。

「しかも一杯ある!」

 この星の最初の王となった人物は、何かを育てるということを好んでいたのだ。そして、小さいころからここにきていた私は、これの存在を知っていた。まさかここまで価値があると思っていなかったが。


「しかしこれだけあれば悩む……」

 単純にオークションに出品し多額のお金にするもよし、外交の道具に使い便宜を図ってもらうもよし。使い道は無限に等しいほど考えられる。

 しかし、なにはともあれ偽物かどうかを確認しなければならない。どれにしようか、見た目から判断しようと色々見てみる。

「まぁ、どれでもいっか。どうせ一杯あるんだし」

 そういって適当に一つを選び『地球』を創り始めた。

  

「「そりゃあと一つしかないんだから、大事に扱うよ」」

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