第2話 愛しの沖田様…マジ神!!
私はカバンの中に必需品を入れ、短剣を持って現在、主人公が転げ落ちる階段の前までやってきました。ゲームのシナリオ通りであれば、私はここで足を踏み外し、転げた先でタイムスリップします…しかし!
「待って!?純粋に考えたら2回目の死じゃん!怖いよぉ!」
そう、私はたった今前世の自分の人生を終わらせてきた。そして今世でも、今この瞬間死のうとしている…しかし下手に短剣は使いたくはない。短剣を使うと、私の記憶が一つ消えてしまうからだ。そうはいってもここで一生を過ごすわけにもいかない…そんなことを思いながら階段の前で立ち往生していると、後ろから誰かの手で押された感覚があった。
「え…?」
以前プレイした時は、遅刻すると急いでいた主人公が自ら足を踏み外し、タイムリープしたのだ。しかし自分以外に兄弟のいない主人公。父は仕事に出た後、そして母親は一階…この状況で私を突き落とせる人間がいるはずがない…!オリジナルストーリでもあり得なかったこの展開に、私の心の中で葛藤が行われていた。私の足が前に滑り落ち、体が傾いた。階段の角が頭にぶつかる前に、誰がおしたのか確認しようと後ろを振り向くと、黒い仮面の兎がいた。私を現世で殺した男だ。恐怖のあまり、私はすぐさま刀を抜くと地面から大きな時計の魔法陣が現れた。私は時計の中に身を落とした。
※
時計の魔法陣に体が吸い込まれると、周りの風景が真っ白に消えた。恐怖で目を瞑ると、周りから時計の針の音が鳴り響いていた。恐る恐る目を開けると、大きな時計が無数に広がり、足元は底がなく、いつまでも針の音を立てていた。ふと空から強い光が差し込むと、空に手を伸ばした。光は大きくなり、何かに手を引かれるよう、体が吸い寄せられていく。
※
目を覚ますと、そこは日に照らされた京都の街だった。現代とは少し変化はあるものの、じめっとした空気に山の数々。少し離れた場所に寺が見える。京都のまちならではの風景であった。
「やばい…早く新選組のところに行かなきゃ…!」
オリジナルの「雷鳴」では今日の巡視時、四条でこの世界を探索する私を見つけた新選組が、現代学生服をきた私を不審者だと認識し、捕まる事で出会いの演出がある。私が降り立ったのは五条の西本願寺近く…ここから四条までは歩いて20分はかかる。私は急いで四条に向かう砂利道を走ろうとすると、後ろから声が聞こえた。
「そこの君。そんな格好で街を出歩いて…一体何してるの?」
この爽やかなCV(キャラクターボイス)。子どもをあやす様な優しい声色…間違いない!!私はその声の主に惹かれる様に後ろを振り返ると、沖田さんが立っていた。「雷鳴」で自分の推し…生でみられた…!ゲームをプレイするたび何度も彼の死を見てきた。画面の向こうでやるせない思いをずっと持ったまま、沖田さんの死を悔しい気持ちで見ていたあの頃を思い出し、どことなく涙が溢れた。思わず涙と共に溢れた喜びが、頬を緩ませた。
「やっと…やっと会えた…!」
涙ながらに私が彼に笑いかけると、気味が悪そうな顔を浮かべながら沖田さんは私に問いかけてきた。
「君は一体……」
私が自分のことを伝えるために、自分は何者なのか言葉を思い出そうとした瞬間。自分が何者かわからなくなっていた。私がここにきた際階段で突き落とされたこと、朝カバンにつめた物、寺本あかりという主人公として生きてきた時間全ての記憶が消されてしまった。ただ覚えているのは、寺本あかりは高校三年生であることだった。私は沖田さんに名前だけでも伝えようとした時、攘夷派の浪士がゾロゾロとこちら側に集まってきたのが見えた。
「壬生浪士組 一番隊隊長、沖田総司とお見受けする」
私たちは敵に包囲されてしまった。怖さのあまり後ろに後退りすると、沖田さんの肩に肩が当たった。私の恐怖心を察してか、沖田さんは微笑みながら私の方を見て落ち着いた声で囁く。
「いい子だからここで待っててね?」
最高のシチュエーションだ…自分の推しが敵に恐怖する私のために微笑んでくれた…私は赤くなった顔を両手で押さえながら、首を縦に振った。沖田さんは敵に居直ると、飄々とした笑みで浪士を見ながら、腰の刀に手を回す。
「そうだよ…で?君たちは誰?」
「私たちは薩長の誓いに敬意を払い、尊皇攘夷を掲げた同志だ。貴様らの命をいただく」
浪士が次々と刀を抜く。沖田さんは私を片手で隠しながら、刀を抜いては、目の前の浪士を睨みつけた。浪士の1人が叫びながら沖田さんに切り掛かると、沖田さんは足を踏み込むと風を切る音を鳴らしながら刀を振り下ろした。目の前の浪士が倒れ込むのを合図に、一斉に浪士は沖田さんに切り掛かる。しかし、彼は浪士たちの間をくぐり抜けるようにステップを踏みながら刀を絵を描くように振り回した。沖田さんが浪士の間から姿を表すと、浪士は次々と体を横たわした。私は彼のその姿に釘付けになった。カッコ良すぎる…私を守って戦い抜いたその姿と、美しい容姿…心のときめきが止まらなかった。沖田さんはこちらにゆっくりと歩み寄る。沖田さんは腕を組み、こちらを見た。
「で、君は何者?」
私は言葉に詰まり、前世の記憶を辿った。ふと「雷鳴」の設定を思い出し、自分が沖田さんを幸せにしたいと言っていた事を思い出しては、馬鹿正直に自分の思いを伝えた。
「はい!私、寺本あかりって言います。貴方を幸せにするため、未来からやってきました!」
沖田さんは威勢よく自己紹介をする私に微笑みかけた後、手を握られた。そして腕に違和感を感じ、下を俯くと、私の手には縄が巻つけられていた。
「とりあえず……屯所まで一緒に行こっか……」
優しい言葉とは裏腹に、怪しむ彼の笑みが輝いて見えた。その輝きはイケメンのそれではなく、腹の黒い感情を隠す笑みであった
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