攻略キャラクターに負けるわけが無いだろ!?

スイートポテト

第1話 推しが攻略キャラじゃないってどーゆー事!?

 「あかり…」

「あかりちゃん…」

「俺のものになれ、あかり…!」


 私は今、困っています…こんなかっこいいイケメンがいっぱい私に言いよってきますが…その、私…!


「想い人がいるので!勘弁してくださーい!!」


第一話 「私、ヒロインになっちゃった!?」


 「あぁ…雷鳴マジで神作~!」


 私は蒼井 桜。幕末時代を愛する所謂「歴女」である。私は今、空前の大ブームを巻き起こしている革命的乙女ゲームをプレイしている。「雷鳴」は幕末時代を舞台としたゲームで、近藤を始めとする新選組や、革命を起こした薩長同盟の仲間。坂本龍馬などの偉人と、現代から来た女子高校生の主人公が時を越え、時代の渦に巻き込まれながら、未来を変化させていくゲームである。神的なイラスト…時代に忠実に再現されたシナリオ…攻略サイトがなければ自分と会うキャラクター以外はクリアできない鬼畜難易度を誇り、ゲーマだけでなく、歴女、海外でも今注目を集めていた。私は、ツイッチを手にしたまま、一つの不満を持っていた。


「とてもいいシチュエーション…素敵なスチル…シークレットキャラ以外全てクリアした…けど!」


 そう…このゲームの最大の弱点…それは、私の推し様…


「なんで沖田さんが攻略外なのよ…!」


 私の推し。新選組 一番隊隊長 沖田総司である。彼は幕末時代に流行っていた病魔。「労咳」又の名を肺結核だ。巷では大流行しており、当時の医学では治すことは不可能だとされていた。その為、未来を変化させることが不可能とされており、攻略キャラから外されていた。しかし、現代日本では死亡率1.8%くらいであり、薬を処方してもらえば治るケースなどいっぱいあると言うのに…なのにも関わらずだ。攻略キャラクターとして認定されずに、扱い的には皆を守る盾となり、困難時に槍となって先陣を切ったり…挙句のはてに最後は新選組から静かに姿を消し、息を引き取るという設定…


「こんなに美形で…攻略キャラと並んでも違和感ない位綺麗な顔…なのにどうしてルートがないの!!」


 そんな事を呟きながら、怒りのまま布団の上にダイブした。枕から顔を上げると、新選組を去ろうとする沖田の姿が見える。その悲しげな背中と、労咳で蝕まれてしまった体を引き攣りながら重い足取りをただ私は見るだけ…こんな悲しい結末があってたまるものか…!


「私なら…沖田さんに一生を尽くすのに…!」


 そう思った時だった。後ろから気配を感じた。多分男の影だったと思う。彼は黒い霧のような冷徹な声で私に話しかけてきた。それは悪魔の囁きのように、甘く、苦い誘いだった。


「だったら君が幸せにするといいよ…」


 背後からじんわりと痛みが感じられた。私は振り向き、背中を見ると、刃が刺さっていた。


「え…?」


 男は刃物を私の背中から抜くと、目の前が暗くなっていった。私は薄くなる意識の中、相手の顔を見た。黒いウサギの仮面を被っていた。男は胸元にある懐中時計を開くと、時刻を見ては、私の動かない体を持ち上げた。抵抗しようと足に神経を向けるも、ピクリと反応しなかった。私はそのまま目を閉じた。


♪.:*:'゜☆.:*:'゜♪.:*:'☆.:*:・'♪.:*:・'゜


  走馬灯の中、瞼の裏に声が聞こえた。私は閉じた瞼を開けると、目の前には小さな兎が時計を持っていた。

 

「…あなたは?」


 真っ白な雪のようなうさぎは、こちらを見ては小さな口を開けた。


「初めまして。僕は時うさぎ。可哀想に…君、黒うさぎに殺されたんだね…?」


 私は殺されたと聞くと、背中をさすった。さっきまでの違和感はなくなっていた。私は時うさぎを見直しては疑問を投げかけた。


「ここはどこ?私は一体どうなるの…?」


 時うさぎは小さな手を私に突き出すと、首を振った。


「そんなに時間がないんだ。僕が時を操れるのは、5分だから…少ない時間で話をするから、聞いておくれ?」


 私はこの小さな兎に信頼を置き、首を縦に振った。


「君はこれから、「雷鳴」の世界へに行くことになった。乙女ゲームの世界に入りたいと願ったからだろうね…でも、このまま連れていかれちゃったら、黒うさぎはまた君を襲うだろう。そうなってもいいように、君には僕からこれを送るよ」


 白兎はそういうと、自分の手にしていた懐中時計を両手に握りしめた。すると時計は光だし、鋭い短剣となった。白兎は短剣を鞘にしまっては、私に手渡した。


「これは僕の力を込めた刀だよ。この刀を抜いたら、5分だけ時を止めることができるし、念じれば、過去や未来に行けるし、願えば自分の体や人の体の時間もとめられる便利な代物だよ」


「…いいの?これって貴方が大切にしていたものじゃないの…?」


 私が刀を両手で抱きしめながら尋ねると、うさぎさんはにこりと笑みをむけて頷いた。


「でも注意点があるんだ。その刀で時を操れば、どんどん君の記憶は薄れていく。君のいた世界の家族や、この世界でできた大切な仲間の記憶も、この刀がかき消してしまう…だから、使うときはそれなりの覚悟を持ってほしい…気をつけてね?」


 白兎は真剣な眼差しで私を見つめていた。初めて出会った私にここまでしてくれる優しいそのふわふわした生き物に私は感謝を込めて頷くと、世界が崩れ始めた。時間だ…そう白兎は呟くと宙に浮き、空へと向かって飛び出した。


「君がまた、僕を呼んでくれたら、その時は僕の方から会いに行くね。君が頑張る姿を応援してるよ」


私は短剣を手に彼のさる姿を眺めていた。光の粒子と共に消える彼の姿は、かぐや姫のように美しく、見とれてしまった……


♪.:*:'゜☆.:*:'゜♪.:*:'☆.:*:・'♪.:*:・'゜


目を覚ますと、そこは見知らぬ天井であった。

自分の記憶を思い出すと……やはり自分は「雷鳴」のヒロイン。寺本あかりになっていた。母親の朝ごはんの最速が聞こえた。


ゲームの展開では主人公はこの時、階段で足を踏み外し、タイムスリップする……私はカバンに必要なものと、白兎から貰った刀を手に、階段の前に立った。いざ、あなたの元へ……!

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