最強チートスキル『全力全開』が弱すぎる!?魔法の火力なら無敵なんだけど……燃費が悪くて追放されてしまいました。一日に三回しか撃てない最強魔法を使い熟して、どうにか俺はSランク冒険者になる!

雨有 数

第1話「爆裂無能野郎」

「クレイ。悪いが……君はクビだ」


 早朝。

 俺は今日も冒険者稼業を頑張ろうと、気合いを入れてギルドに出てきたわけだが……そこで突きつけられたのはパーティーリーダーの厳しい言葉。

 まぁ、リーダーに大事な話があると呼び出された辺りで、こうなると若干思っていたのだけど。


 紙の束やら何やらがたっぷりと積まれた机に肘を置いて、リーダーはため息を吐く。


「俺だって、こんなことは言いたくないが……正直なところ、君はウチでは手に余る」

「そ、そんな……! ボクは『紅玉の天馬』をクビになると個人活動になってしまうんです……!」

「ここでなくてもギルドなら沢山あるだろう?」

「そ、その……今ボクが入ることのできるギルドはその、全て……クビに……」


 俺の返事を聞いて、リーダーはまばらに生えた顎髭を撫でる。

 このギルドに入って一ヶ月。確かにめぼしい活躍はなかった。けれど、露骨に足を引っ張ったことも……多分、ないはず。今度こそ上手くやれたはずだと思っていたんだけど。


「ユニークスキル持ちで、あの名門中の名門ヴァール家の長男だと聞いたから、期待したんだが……」

「ダ、ダメでしたか?」

「恐らく素の実力はCランクを大きく超えているとは思う。もしかすると俺よりも腕は立つかもな?」

「な、ならぜひここでボクを!」

「だが、君の強さは……ハッキリ言ってギルドでは求められていないものだ」

「……」

「あの魔法の余波を受けても無事な程に強い冒険者は、そもそも君と同じ仕事を任せる必要がないし、かといって君の魔法に巻き込まれて危ない冒険者を君につけるわけにもいかない」


 正論だ。その通り過ぎて欠片も反論できない。


「ウチもそう余裕があるわけじゃない。分かってくれるな?」

「……はい」


 俺は肩を落としてそう返事をするしかなかった。

 これで十三回目――ギルドをクビになった回数だ。リーダーから貰った金貨一枚を握って、俺はぽつぽつと通りを歩く。

 この国で、俺みたいなCランク冒険者が入ることのできるギルドはこれで終わりだ。あとはBやAランクの冒険者を募集しているギルドしかない。

 つまり、俺は必然的に個人活動を強いられることとなった。


 はぁ……。


 自然とため息が零れる。

 取り敢えず大ギルドに行くしかない。多くの場合、ギルドという言葉には二つの意味がある。一つが、大ギルド。これは冒険者ギルドと言われる巨大な組織で、俺たちみたいな冒険者に依頼を斡旋してくれるありがたい場所だ。

 もう一つが小ギルド。こっちは俺たち冒険者が勝手に徒党を組み、一つの組織として動いている。冒険者ギルドが設立された当時は、この小ギルドというものはなかったらしいが……自然と気の合う冒険者やら利害の一致した冒険者たちが手を組むという流れで当たり前のものになった。

 それのお陰で、個人活動の冒険者というものも激減してしまったらしい。


 実際、実力がなければどこのギルドにも属さずに冒険者稼業をやっていくのは難しい話なのだ。そして残念なことにその実力が俺にはない。


 だからこうして小ギルドに所属していたのだが……。まぁ、ことごとくクビになってしまったというわけである。

 それもこれも、俺のユニークスキルが悪いのだ。


 ユニークスキルというのは神から与えられる特殊な能力のことを指す。大抵が、戦いに使えるものばかりなので基本的にこのユニークスキルを獲得した人間は名のある実力者になるというのが通説だ。

 だが、俺に限ってはこのユニークスキルのせいで大いに迷惑を被っているといっても過言ではない。


 ……はぁ。


 もう一度、深いため息。

 こんなことを考えている間に、冒険者ギルドに到着したらしい。周囲の建物と見比べても、一際大きい外観はそれだけでギルドの規模を示していた。両開きの扉を押し開けて、俺はギルドの門を潜る。


 朝も早いというのに、ギルドはそれなりに賑わっていた。これから昼につれて更に賑わっていくのだろう。


「よー、クレイ。一人で来たってことはまたクビになったのかよ~!」

「……そうだけど? 傷心中なんだ、もう少し優しくしてくれ」

「ハッハッハ! やっぱ爆裂無能野郎は大人しく家に帰った方がいいんだよ! ま、あの名門ヴァール家だと、肩身も狭いだろうが!」


 朝っぱらから酒を呷って、ついでに俺も煽ってくるのは顔なじみのザガレという男だ。とはいえ、いつも俺をイジっては酒のツマミにする嫌な奴。しかも、まぁ言っていることが見当違いでないのが余計に腹立たしい。

 お察しの通り、名門の生まれなのに冒険者をやってててロクに家のためにもなってないような長男はとっても肩身が狭い! 取り敢えず適当にあしらいつつ、俺は依頼が張り出されている掲示板の前に立った。


「んー。募集人数三人、二人、四人、三人。どれもこれもソロじゃ無理かぁ……」


 上から下へ。下から上へ。

 舐めるように見て回るが、そのどれもがお一人様お断りらしい。さて、ここでどこの小ギルドにも属していない冒険者が誰かと依頼に出ようとするとどうしなければならないか。


 そう、仲間を見つけなければならないのだ。


 しかし……小ギルドに属している冒険者は基本的に自分たちの小ギルド以外の冒険者たちと組むことは認められていない。そして、それがあるからこそ個人冒険者の数は極端に少ないのだ。

 個人冒険者が今から仕事仲間を見繕うと思えば、方法は二つ。

 一つ、数少ない個人冒険者を探し出して一緒に仕事をする。

 二つ、どこかの小ギルドに所属する。


 とはいえ前者は今現在周囲には見当たらず……。後者はもちろん今朝クビになったばかりだ。

 と、なれば個人で受けられる依頼が来るのを待つしか……。


 なんて、腕を組んで考えていると見ない顔の女性が周囲をキョロキョロと物珍しげに眺めつつ掲示板に紙を貼り付けた。


「……依頼ですか?」

「え、あ、はい。そうです!」

「あー、依頼を出す場合はまず受付嬢さんに話を通してからじゃないとダメなんですよ」

「あ、あ! ごめんなさい! 初めて来るもので勝手が分からず……」


 ガバリと、大きく頭を下げた彼女。茶色の長い髪が彼女のダイナミックな動きに合わせて揺れ動く。

 

「じゃあ、受付嬢さんのところに案内しましょうか?」

「お願いします!」


 と、いいつつ依頼をチラっと眺めて見た。

 一つ山を越えた先にある村での薬草採取の依頼か。これならソロでもできそうだし……報酬も悪くない。

 押し売りをするようで申し訳ないが、ここは生活のためだ。多少強引にでもこの依頼を受けさせて貰おう。


「あの、この依頼なんですけどボクが受けてもいいですかね?」

「受けてくれるんですか!? もちろんです、お願いします!」


 やった! とガッツポーズをしたい衝動をグッと抑えて、俺は冷静を装ってそう返事をした。

 

「はい。ボクはえっと、クレイって名前です! よろしくお願いしますね」

「クレイさんですね、私はサーリャです。すぐに見つかってよかったぁ……。じゃあ、早速村まで行きましょう、村まで!」


 グッと俺の手を引っ張ってサーリャさんはギルドの外へ出て行こうとするが、俺は慌ててそれを止めた。


「まだ依頼の申し込みがまだなので! 先にそっちを済ませてから行きましょうサーリャさん!」

「あ……そうでした、申し訳ありません。つい、嬉しくて!」


 えへへ、と頭を掻くサーリャさん。何はともあれ、クビになって早々ソロでもできる依頼を見つけるなんて、幸先がいい。

 取り敢えず、この依頼をしっかりとこなそう! そう考えた俺はサーリャさんと共に依頼の申し込みを行って正式に薬草採取の依頼を受けることとなった。


◆クレイ、本日の残り魔法発動回数 三回◆

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