第14話 ハンドルを握れば…

「絢音て、免許持ってたんやなー」


「うん。殆どペーパードライバーだけどね。でも、藤次さんその足じゃ運転できないでしょ?だから、頑張ってみる!!」


「絢音…」


高速を使ってドライブデートに来ていた2人だが、紅葉狩りの途中、藤次が山道を踏み外し、利き足を捻ってしまった為、帰りの道は絢音が運転することになった。


運転席で少し震えながらも、ガッツポーズをする妻にデレデレしながら鍵を渡すと、絢音はそれを車に差し込み、エンジンをかけハンドルを握る。


「だ、大丈夫か?無理なら…」


「話しかけないで!!!!」


「ハイ!!」


ビクッと、姿勢を正してシートベルトを締めて、藤次は恐々絢音の横顔を盗み見る。


普段見せない、物凄く険しい表情で運転する彼女にハラハラしながらも、車はちまちました街中を無事に抜けて高速道路に乗り、藤次ははあと息を吐く。


が、チカチカとウィンカーを出して、本線に入った瞬間だった。


不意に、絢音がポツリと呟く。


「ここからは、信号、ないのよね…」


「へ?」


瞬間、クッと、絢音はアクセルを踏み締める。


「ちょ、ちょ、絢音!おまっ!高速道路かてスピード規制…」


「話しかけないで!散々狭い道ゆっくり走ってて、イライラしてたの!!…ここからは、一気に捲るわよーーーー!!」


「ひいっ!!?」


目を爛々と輝かせて、アクセルをベタ踏みする、普段穏やかな絢音からは想像出来ない行動に、藤次は青ざめる。


「ちょ、ちょお待ち絢音!!に、200はあかん!!せめて100kmで!!おいっ!!ちょっ!!わああああっ!!!!!!」



「あー…久しぶりに運転してスカッとしたぁ〜。藤次さん、これからは私にも運転させてね❤︎」


「……かん。」


「ん?」


「あかん!!!ずぅえったいもう、運転はアカン!!!!高速道路なんでもっての外や!!アカン!!!」


「な、なによぅ、そんな剣幕で言わなくても…良いじゃない少しくらい。」


「あかん!!!どうしても言うなら富士急行き!!そこで思い切り絶叫したらええわ!!!」


「なによもう、ちょっとスピード出しただけじゃない…」


「「ちょっと」ぉ?!200km近いスピード出すのがちょっと?!どうかしとる!!ワシ何度も、三途の川の向こうの親父を見たことかっっ!!とにかく!!もう運転はアカン!!破ったら離婚や!!ええな!!」


「なによぅ…藤次さぁん。」


冷や汗塗れで、凄まじい剣幕でレンタカー屋をあとにする藤次に不思議そうについていく絢音。


いつもの可愛い絢音の顔に、あの高速道路の、狂気に満ちて愉しそうに運転する顔がダブり、藤次はため息をつく。


「ホンマ、人は見かけによらんな…」


いつぞやのゴキブリの一件と言い、彼女にはまだまだ、自分の知らない顔があると思い知らされた、藤次なのでした。



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甘い生活〜藤次と絢音のイチャイチャストーリー集〜 市丸あや @nekoneko_2556

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