桃原に花の咲く頃(三)
彼女とすれば、ただ、
男だけが熱くなり、盛んに腕を振り回して甲高い声を張り上げていた。
(ばからしい……わたくしはいったいここで、何をやっているのかしら……)
そういう
そして崇侯瑛の故事の
男の「――…首を所望したとて大過なしと思うが、
「なるほど崇侯瑛の
しかしながらあなたは躄者ではなく、その足で自ら章弦君さまの下に出てそれを求めることもしていない……そもそも章弦君さまの食客ですらないようですし…――」
ここで明璇は、十分に嫌味な溜息を
面前の男はもとより往来の学士崩れどもも声を失ってしまっている。隣の
十分に間を計ってから、明璇は話を終いに
「…――ここで意味のない放言を重ねるくらいなら、さっさと章弦君さまの
すると、それまで男の弁に湧いていた学士崩れどもは、今度は明璇に同調し、その歯切れの良さを褒めそやし始める。
そんな外野の動向など委細かまわずに、明璇は、十三歳という年齢に似合わぬ威を細い身体いっぱいに
まだ
「ふん、口は達者だな、小娘。そなたは多少
『三従四徳』とは、女が従うべきとされた三つの道と四つの徳をいう。
女らしさをいう「婦徳」、
女らしい言葉遣いをいう「婦言」、
女らしい身だしなみをいう「婦容」、
そして家事のことをいう「婦功」……の〝四徳〟のことをいう。
〝この国〟に生れた女は、数え十歳となるとこれを学ぶこととなっていた。
つまり男は、往来の中、衆目の面前で〝天下の士〟たる自分を
再び外野の学士崩れどもの声が大きくなったようだった。この場合はもちろん賛意に、である。
(――はぁ⁉)
心の中だけでとはいえ、そんな慎みのない声を上げることとなった明璇は、もう男の嘲笑と挑発の言葉にまともに取り合うことをやめた。
「わたくしの婦徳は、
ぴしゃりとそう言ってやると、明璇は、あとはもう話すことはないとばかりにくるりと身を翻した。最初に絡まれていた
……そんな
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