わたくしのお人形さん

眠れる森の猫

第1話

 わたくしは、馬車を走らせ、彼の別荘があるエリュシオン邸へと向かった。


「……ハデスさま」


 馬車を降りてから、まっすぐ、彼の書斎へと足を運ぶ。嬉しさのあまり駆け足になってしまう。令嬢らしくないと、言われるかもしれない。だけど彼に見てほしい。一緒に選んでくれた、この白いドレスを――

 


 もうすぐ彼の書斎が見えてくる。


「ハデス様!!」


 わたくしは勢い余ってノックもせずに彼がいる書斎の扉を開けてしまう。


 わたくしとしたことが……


 うふふ、少し浮かれているのかもしれませんわね。でも、仕方なくってよ。


 私は、忙しいんだ、もう来ないでくれと、ハデス様に念をおされて、しまいましたけど、でも、わたくしは……


 学園に通うようになってから、この1年、彼と話す機会が極端に減って……


 月に一度の大聖堂の訪問のときでさえも……


 明日、彼と一緒に出席するパーティで着ていくこのドレス。


 これに身を包んだ、このわたくしの姿を一目だけでもいいから、見てくださらないかしら。


「ハデス様?」


 いつもいる書斎に彼がいない。

 おかしいですわね。


 奥の部屋から 吐息のような喘ぎ声が聞こえてくる。


 その声がする方に足を向ける。


 書斎の奥の部屋、彼の仮眠室の方から声が……


 ハデス様……?


 そして、仮眠室の扉をおそるおそる開くと――


「そ、そんな、うそっ……」


 わたくしは、ありえない光景を目にする。


 ハデス様が仮眠室に女性を連れ込んでいたのだ。


 ベッドの中でハデス様とその女性が裸で抱き合っていた……


 そう、愛し合っていたのだ。

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