第36話 騎士選抜

 インズ・アレティを中心として形成されたこの国家『リーベルタース』では

各地の領土を其々の騎士が治めている。

 

領土を治める『領主』と皇都へ赴く『騎士』に分けられ

領主は『親』であり、騎士は『子供』である。

そして領主は、騎士を経て領主になり新たな騎士を任命する。

 

この段階に基本的には世襲制度が用いられているが

『継承者』を指名して、全く血の繋がりがない場合もある。


 このブレイク領は、基本的に世襲制を用いているが

代々の領主になる者には必ず正室と側室がいた。

少なくとも2人以上のパートナーを持つように義務付けられていた。


そうして、子供を2人以上育て、互いを競わせながら

成長した頃に『どちらがより領主に相応しいか』を決定して来たのだと言う。


「これがこのブレイク領で行われる騎士選抜だ」


ヴァールハイトは苦しげに言葉を紡いでいた。


「このブレイク領では既に騎士も任命されているのですから、その騎士選抜は終わっているのでしょう?」


ボノスの問いかけにヴァールハイトは静かに頷いた。


「漁港で店主と話していた『事件』というのがその騎士選抜に関わることなんだ」


「この花畑はその時に亡くなった人たちの墓標なんだ。

正確な人数や、どこの誰とも分からないままになっている人も多くて

墓石は作れないまま花だけが咲いているんだ」


そう言って街道からさらに花畑の奥に向かって歩みを進める彼は

花畑の最奥、小さな花々に囲まれながらひっそりと立つ墓石が1つだけあった。


『騎士選抜における被害者に鎮魂を』


一言だけ書かれた墓石にはそれ以外何もなく

年も月も何の記載もなかった。


「今回の騎士ブレイクを決定した騎士選抜は今までとは違って泥沼のようだったんだ」


 同じドラゴン族という事もありヴァールハイト領とブレイク領は交流を持っていたのだという。

ただ国同士の距離は少しある為頻回な交流ではなく、年に数回程度のものだったとか。


ヴァールハイトは自国の騎士という立場であった為

騎士選抜の為に遠征としてヴァールハイト領を訪れていたブレイクと面識があった事


そのブレイク一行がヴァールハイト領内で殺人事件に巻き込まれ

彼以外は全員死亡したことを話し始めた。


「俺が知っているのは、その事件によってブレイク領/ヴァールハイト領内が騒然とした事と

騎士ブレイクが任命された事、そして……」


「俺が第二王妃と妹を領土外へ追放した事、だろう?」


低い、はっきりとした声


街道沿いを振り向くと、そこにはこの国の騎士ブレイクが立っていた。

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