第32話 アモルの憶測

 今のままでは憶測のままだ。

これを確認しなければいけない


そうでなければ前に進めないと


そんな思いが駆け巡っていた。


――庭園にて――


 昨日会談の席にいた領主はそこで花々に水をやっていた所だった。


「おや、アモル様。

こんな早くにどうされたのですか?」


一瞥した視線は直ぐに花に戻され、水をあげる動作を止めることもない。


「お聞きしたいことがありまして」

「秘宝についてであれば昨日お話しした通りで……」

「いえ、ブレイク領主様はどちらにおいでですか」


 その一言を告げた瞬間、明らかに相手方の瞳は狼狽えていた。


「貴方には鱗も、尻尾もない。

ブレイク領の領主はドラゴン族の方であった筈。

……であれば、その特徴を持たない貴方は何者なのかと思うのです」


私の紡ぐ言の葉は、確かに彼の耳に届いているはずなのに

当の本人はというと、ジョウロを強く握りしめたまま

立ち竦んでいて、その瞳の先には


「存外、継承者様は人を見る目がお有りのようですね」


領主と名乗っていた彼の二倍はありそうな長身の男性が立っていた。


「……ブレイク様」

「カール、代役ありがとう。もう構わないよ」


その長身の男は、領主を名乗っていた男にそう告げた。

そして、カールと呼ばれた彼は眉間に皺を寄せたままこちらへ一礼をして

この庭園を後にした。


『ブレイク様』


この長身の男は確かにそう呼ばれていた。


「ということは……貴方がブレイク領主様で間違いないのですか」


私の問い掛けに対して薄らと笑みを浮かべたまま

彼は


「そうですよ。試すような真似をして申し訳なかったです」


そう全く申しわけなさそうに紡いだ。


その態度に対して明らかに不満を抱いているのがリューゲだ。

「いくら領主様といえど、継承者を騙すような真似は如何なものかと思うのですが」

刺々しいその態度を隠す様子もなく、彼女は続けた。


「これは一種の侮辱ではないのですか」

「リューゲ、それ以上は」


領主を睨みつけるリューゲをボノスが宥めようとしているが


「この程度、見破れないようであれば継承者を名乗る資格はないかとも思いますがね」


火に油を注ぐように笑みを浮かべながら

ブレイク領主はリューゲの神経を逆撫でるように言葉を続けた。


「籠の姫様は、きっと各領主の顔など知らないでしょうからね。

 その分我らも信頼などないのですよ」


「あんたねぇ……!」

覇気を強めたリューゲは背中に担いでいた槍に手を伸ばそうとしていた。

 

「リューゲ。彼の言い分はもっともだ」


今にも武器を振り回しそうになるリューゲに声をかけたのは


「……なんでよ!ヴァールハイト!」


同じドラゴン族のヴァールハイトだった。

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