第31話 ブレイク領主

「では、改めまして。

アモル第二皇女様、ようこそこのブレイク領へいらっしゃいました。」


領主の邸宅に案内された後、私は騎士5人を並べても余裕のあるであろうソファーに1人座して

領主の対面で話を聞いていた。


「ここへ来られた目的は、ククルス様の御達しである『継承』についての事でお間違い無いですか?」


「えぇ、皇位継承についての事です。各地の秘宝とやらを探しに来ました」


笑顔で話す領主は『秘宝』という単語を聞いた途端

その笑みの中で、薄く目を開いた。


まるで、獲物を狙う蛇のように纏わりつく視線。


昔、王宮内で浴び続けた視線そのものだった。


「単刀直入に伺います。秘宝とは何なのでしょうか」

「その問いにはお答えしかねます」


臆する事なく発した言葉は意図も容易く拒絶され、領主はその薄く開いた瞳を閉じた。


「秘宝という存在については認知しています。

けれどもこれは領主以外には受け継がれないもの。


何人たりともこの存在について説明することは出来ないのです」


「……貴方様自身が気付ければ、その時はお伝えしましょう」


領主はそれ以降、秘宝に関する話題を出さなかった。


――ブレイク領 ブレイク邸の一室にて――


「秘宝について何も教えて貰えなかったわね」

開け放った窓から景色を見ながらリューゲは呟いた。


「きっと、教えてもらうだけではいけないのよ。

……だって皇位継承に関わる一大事だもの。人から教わるだけでいい筈がない」


そう、これは皇位継承問題なのだ。


ただの観光でも


思い出づくりの旅でもないのだから。


「……私、アモルのそういう真面目な所は美徳だと思うけれど

悲観的がすぎるのは欠点だとも思うわね」


クスリと薄く口を開きながらリューゲは続けた。


「人から教わって人は成長するものでしょう?

皇位継承者だって最初はただの赤子よ。周りの支えがないと無知なままで」

「姉様は、違ったもの」


つい、リューゲの言葉を遮ってしまった。

こんな事言うつもりは無かったのに。


「……カムラ様が凄い人だって言うのは分かっているけれど

私にとってはアモルも凄いと思うのよ?それは信じて貰えないかしら」


キィ……


音がした方向に目を向けるとリューゲが窓を閉めてこちらを向いていた。


「……そういう訳じゃ、ないけれど」


小さく、力無く呟いた言葉は風のないこの部屋の片隅に残って

私の耳に反響していた。


リューゲを信じていない訳などない。


誰も信じれなかった王宮内で

数少ない、損得なしの感情で関わりを持ってくれた人。


その中でも、唯一の同性の友人と呼べる存在だ。


そんな事を考えていると頬に温もりが広がったのを感じた。


「アモル。私は、私の大切な人を傷つけられるのが嫌いなの。

それはアモル自身が貴方を傷つけるのも同義よ。


……私は争いが起こったとしても、嘘はつかないから。」

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