第17話 思い込んだ世界
塔の屋上で私が命を絶とうとしたことも
それを騎士が止めた事もこの場にいる者以外は知り得ない。
けれどもそんなことをしている間にもカムラ姉様は先に進んでしまう。
私の歩みなど、待つ事は無く
羨望のその先へと他者を置いて行ってしまう。
それは、私だけでなく
姉上を支持する騎士たちをも置き去りにしてしまうのだ。
私を引き留めたブレイクもそれは同様であり
彼はカムラ姉様を追いかける為に
私とリューゲたちを残して足早にこの場を去った。
その時に
「カムラは最初に我がブレイク領に向かうと話していた。
……お前達は『秘宝』がなんなのかを調べた方がいいかも知れないな」
と言い残していった。
屋上にたどり着いた時には暗かった夜空も少しだけ白んできていた。
「ねぇ、アモル。私はアモルに生きて欲しい。
それがアモルにとって辛い選択なのかも知れないけれど
それでも、私のエゴだとしてもそう願ってしまうの」
私を抱きしめたまま、リューゲは言葉を紡いだ。
「王になって欲しい訳じゃないの。ただ……」
「俺たちはアモルとして生きていて欲しいと思っているんだ」
リューゲの声にヴァールハイトの声が重なる。
先程までとは違い、震えがなく強い意志を感じる確かな声色。
昔からそうだった。
初めて出来た同性の友人に
姉様以外で初めて
『大切にしたい』
『守りたい』と
そう感じた存在。
私を支持してくれている騎士の中でも古くからの付き合いだ。
私が継承者に選ばれ、愚痴をこぼした時も
何度も継承権を放棄しようとした時も
こうやってそばにいてくれた。
飽きもせず、見捨てもせずに。
「ごめん、2人とも。……私はまた、間違えたのかな。」
この台詞も何度も繰り返した記憶がある。
でも、その度に彼らは『間違いじゃない』と答えてくれた。
「あぁ、間違いだよ」
記憶の片隅に置かれていた、淡い期待は早々と砕かれた。
『いつもこうだったから、次も同じだ』といつからか思い込んでいた。
この国の王位継承が姉妹で争われることも
男児が早逝する事も
姉が死に絶え、妹が王位を継ぐことも
全て私にも当てはまるものだと思い込んだ。
「アモルはいつも間違えているんだ」
ヴァールハイトは淡々と続けていく。
「俺たちがどんなに心配しているか分かったつもりで判ってない。
毎回心配しても、いつでも笑う。
笑うことで心配をかけないようにと思っているのかも知れないけど
それが俺たちにとって辛いってことが伝わってないんだろう?」
いや、淡々とはまたしても私の思い込みで
語るヴァールハイトの肩が少しだけ揺れているのが
私の肩を抱くリューゲの手に力がこもったのだけは
理解できた。
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