(タイトル未定) #文披31題

小田島静流

01 黄昏の街

 父が死んだ。

 正確には、小さい頃に両親が離婚して、それから一度も会っていない父親の訃報が、半年遅れで届いた。

 父の暮らしていた町外れの屋敷が、遺産として俺に残されたらしい。


 もう顔も覚えていない、そもそも俺の人生にほとんど関わりのなかった父。

 ほとんど他人でしかない男の人生に、それこそ死んでから関わらなければならないなんて正直面倒だったが、血縁はもう俺しか残っていないらしい。

 放棄するにも手続きが必要だと言われて、仕方なく長めの夏期休暇を申請した。


 遺産管理人から届いた片道切符を握りしめ、朝一番の列車に乗り込む。

 行き先は黄昏の街。列車と馬車を乗り継いで、ほぼ一日の距離だ。


 休暇を申請した時に、上司から聞いた言葉を思い出す。

「黄昏の街か。鄙びた、いい街だよ。人生に疲れた人が最後に辿り着く場所、なんて言われてるらしいね」


 父はどんな思いで、そんな街に暮らしていたのだろう。

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