俺は今■周目???

御厨カイト

俺は今■周目???



「もー、蓮?そろそろ朝だよ、ちゃんと起きてね」


「……う、うん、分かってるよ」



……また、またか、またなのか。

まだ俺許してもらえないのか。


さっきからガンガンと鳴り響いている頭を押さえながら、俺はベットから起き上がる。



「それじゃ、先に私は仕事行くからね。蓮も休みだからってあまりダラダラしないんだよ?」


「もう、行くのか……」


「もうって私いつもこの時間に家を出てるじゃない」



そう言いながら、玄関へと向かう彼女の背中に声を掛ける。



「……そう言えば……今日は急な接待が入ったから帰りが遅くなるんだよな?」


「え、うん、そうだけど……言ったっけ、それ」



……あぁ、またやってしまった。



「……いや、昨日言っていた気がしたから」


「そうだっけ?……まぁいいや、じゃあそういう訳だから」


「あっ、あ、朝ごはんはもう食べたのか?」


「……朝ごはん?うん、もう食べたけど?サラダと目玉焼き」


「何かもうちょっと食べたい物とか無いのか?例えば…………イタリアンとか!結衣、イタリアンとかパスタとか好きだっただろう?そ、そういうのは食べなくて良いのか?」


「えーっ、流石に朝からパスタは入らないよ。そもそも、そんなにお腹も空いて無いし」


「……そっか、そうだよな、ごめん」


「……ハハハ、なんか今日の蓮ちょっと変だよ。大丈夫?」



少し苦笑いをしながら、彼女はそう案じてくる。



「……まぁ、うん、ちょっと疲れているみたい」


「それならさっきのは前言撤回。休日だから今日はしっかり休んでね。それじゃあ、そろそろ行ってきます」


「あっ……やっぱり、もうちょっとだけ……」



靴を履き、玄関のドアに手を掛けようとした彼女の肩に手を置き、止める。



「もー、今度は一体どうしたの?」


「……やっぱ、今日休めないのか?」


「えっ?」


「今日、お仕事休めたりできないのか?」


「……急に何言ってんの?そんなことが出来る訳ないのは共に社会人である蓮もよく分かってるよね?それに今日は――」


「もちろん大切な接待があることも知ってる。だけど……別にそれだけじゃないか。今日会社に行かなくたって死ぬ訳じゃない。そのせいで会社を首になったとしても、俺がお前を養ってみせる。だから……」



両肩に置いていた手に力が入る。

だが――



「……はぁ、ホントに蓮は疲れているのね。今日はちゃんとしっかり休むこと!帰ったら沢山相手してあげるから。流石にそろそろ行かないとバスに間に合わなくなっちゃう」



俺の言葉を軽くあしらうように、彼女はまた玄関の方に体を向けようとする。



「あっ……ちょ、ちょっと待って。ごめん、最後にもう少しだけ。きょ、今日はバスは使わない方が良いよ?信号無視したトラックが突っ込んでくるからね。だからと言って電車もダメ。脱線事故が起きちゃうから。あぁ、タクシーもダメだよ。信号を待っている時に後ろから乗用車が突っ込んでくる。それに――」


「ちょ、ちょ、ちょっと待って!……今日の蓮はおかしいよ!何だか……いつもの蓮じゃないみたい。ホントに大丈夫?」


「……いつもの……俺じゃない?」


「そう!なんか言葉で言い表せないけど何か……おかしいよ!」



必死に喋る俺に対して怯えながら、そう訴えてくる彼女。

そんな彼女の様子に俺は笑みが零れてくる。



「……アハッ、アハハハハ!なぁ、そのいつもっていつの話だよ。お前にとっては昨日の俺かもしれないけど、俺にとっては何周目の俺だよ!?」


「……えっ?」


「お前が本当に死ぬだなんて思ってもいなかった時か?あるいはお前を心の底から助けたいと思っていた時?それとも……もうお前を助けることに……疲れた時?」


「ど、どっ、どういう事?」


「……チッ、くっそ、もういい、この話をするのも何回目だよ!この朝からのやり取りも全て!もう……どうすればいいだよ……」


「ホ、ホントにどういう事?蓮、ちゃんと説明してよ!」


「説明?……出来たらやってるよ!でも、それを話したら目の前で……お前が……お前が…………なぁ、何で俺なんだ……もう……いいよ……」



彼女の両肩を掴みながら、思わず涙ぐむ俺。

そんな会話の通じない俺に恐怖を感じたのか、ゆっくりと後ずさりをしながら玄関のドアへと近づく彼女。



「ねぇ、どうして?どうしても行くの?俺がこんなに言ってるのに本当に行っちゃうのか?」


「……」


「……ダメ、ダメだよ!行っちゃダメだよ!」



両肩を掴んでいる手にグッと力を込める。

そして、彼女の事を止める。



「ちょ、ちょっと、離してよ!」


「いーや、離さない!結衣が『行かない』って言うまで絶対に離さない!」


「もういい加減にしてよ!会社に遅れちゃうでしょ!てか手、痛いし、危ないから」


「どんなに言われても絶対に離さないよ!どう考えても俺の方が力が強いし」



狭い玄関で取っ組み合いをする俺たち。



「そんなこと言ったって、蓮が言ってる事意味が分かんないんだもん!ちゃんと説明してよ!」


「だから……俺も説明したいんだって!でも、神様か誰かがそうさせてくれなんだよ!」


「何なのそれ、ホント意味が分かんない……ってちょ、ちょ、ちょっと待って、ホントに、ホントに危ないから!……って、キャッ!」










ゴンッ











何か硬いものと硬いもの同士がぶつかった鈍い音が響く。






その音にハッと我に返ると、そこには床に倒れた結衣の姿が。



そして頭の部分から赤い液体がじわーっと床の上に広がっていく。






「えっ……?……結衣?結衣?……結衣!」





どんなに名前を呼んでも応答が無い。






……なんで、なんで、なんでだよ!

まただ、また、結衣が死んでしまった!






くっそ、家に居させようとしたら今度はこうなるのかよ……。

どんな手を結局は同じ結果が待っている……。






俺は……俺は……一体どうすればいいんだよ……









ハッ、ハハハッ…………次どうするか考えなくちゃな……














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俺は今■周目??? 御厨カイト @mikuriya777

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