第24話 新たな始まり

武者小路と過ごした俺にとっては長いようで短かった夏休みも終わりを向かえ、まだまだ暑さを感じる季節の中、2学期が今日から始まる事となった。


「うぃーす、久しぶりー」

「おはよー」

「元気だったー?」


あちらこちらで聞こえる、新学期特有の挨拶を聞きながら、俺は学校へと繋がる通学路を歩いていた時の事である。

「よー、湊! 元気だったか?」

「"元気だったか?"って、この前会ったばかりだろ?」

相も変わらず、金色に染めた髪でそんなふざけた挨拶をしてきた我が友人に俺はため息をつきながらそう返事をかえした。


「高杉ーーおはよう!  あ、大村も」

「なあ、何で俺だけ間を空けた? 普通に湊と一緒に挨拶すれば良いんじゃね!?」

「………チッ、ちっせー男だなあ」

「ハァ!? 今なんつった? この馬鹿娘!」

「あ"あ"ん!?」


挨拶された方を見れば、これまた休み前と変わらず綺麗に染め上がった金髪の芹沢環がいた。

「まったく………おはよう芹沢」

………そう、俺が返事をしても春樹と共に、仲良く口喧嘩を始めた芹沢の耳には届かなかったようである。


「貴様ら、いい加減にせんか」

すると、そんな二人を一喝して止める声がそこに響いた。

「チッ………」

「ハァ……ヨーコさん、おはよー」

見ればそこには久しぶりに見るロングスカートと長い黒髪を靡かせた武者小路が相変わらずの薄いカバンを手にぶら下げて立っていた。


「おはよう、武者小路」

「湊か、おはよう」

俺達は互いに挨拶を交わしながら、そんないつも通りの朝を向かえ、俺達の2学期はスタートを切ったのだった。


……………………………………………………………


「今日は転校生を紹介するぞ!」


教室に入れば、以前と変わらない者もいれば、正しく遊んでましたといったような者もいて、久しぶりに

会うクラスメイトということもありそれぞれが挨拶を交わし暫くはその喧騒が続いていた。


そんな新しい学期の初めのホームルームの時である。担任ががそう声をだしたのは………

ついこの前、芹沢が来たばかりだと言うのに、なんとも転校生が多いクラスだなあと、俺は少々呆れながらそう考えていた。


「おーい、入って良いぞ!」


ガラリッ


「失礼します」

そうして、入ってきた生徒を見て俺は目を疑った。

「………九条?」

そう思わず口に出してしまう位には、驚いてしまった。

「あら、高杉くん?」


ザワッ…


「んん!? なんだあ高杉? お前ら知り合いかー? まあ良い、取り敢えず九条、自己紹介を頼むわ」

クラスの連中は少しざわついているものの、担任からそう促された九条は教壇の前に出て、自己紹介を始めた。


「この度、父の会社の都合で隣の県から引っ越して来ました、九条真由美です。 宜しくお願いします。」


そう言って深々と頭を下げ挨拶をする九条の姿は、俺が過去の世界で見た九条の姿とは全く違っていて、スカートは、以前のようなロングスカートではなく膝よりほんの少し上ぐらいで、夏用の制服を彼女の雰囲気も相まって涼やかに着こなしており、その佇まいはまさしく凛としたお嬢様といった出で立ちだった。


「………誰だ? アイツは………」

そう、俺の隣の窓際の席で目を大きく見開き感想を漏らした武者小路に、俺は激しく同意するのであった………。


……………………………………………………………


その後、一つ授業を挟んで休み時間となり、今俺の目の行き先には先日の芹沢の時とは違い、これぞザ・転校生といった模様が繰り広げられていた。


「ねえねえ、九条さんって何処にすんでるのーー?」

「か、かかかか彼氏はいますか?」

「取り敢えず、アドレス交換しよーよ!」


ガヤガヤガヤガヤ………


「なあ………湊」

「なんだ………武者小路」

「あれは、本当に真由美なのか? アタシが知ってる、アタシのライバルの真由美なのかあれは?」

「………恐らくな…」

現在、最後列の席で二人で共に肘をつきながら、武者小路の列の前から二番目の席にいる九条真由美を眺めて、俺達はそんな感想を並べていた。


「住まいは内緒、彼氏はいないわ………アドレスは…そうね、後で交換しましょう………失礼、ちょっと席を外すわね」

そのあまりにもそっけない態度にクラスメイト達は、その場に立ち尽くしてしまい、そうして自席を立った九条はというと綺麗な姿勢を保ちながら此方に向かって歩いてきた。


「久しぶりね、高杉くん………それに陽子」

そして俺達の前で立ち止まった九条は、俺と武者小路にそう投げ掛けてきた。


「ああ……久しぶりだな」

「フンッ、随分ネコ被りが上手いじゃないか…真由美」

俺達は互いに挨拶と言うべきか分からない会話を交わしたのだったのだが、今度は俺達の席の近くでその状況を見守っていた春樹と芹沢が九条に近づいて啖呵を切り始めた。

「チッ………テメー何でここにいんだよ?」

「ウンウン………全くだ! もっと言ってやれ芹沢! そして、俺ともアドレス交換しろ!」


最後の1人はアホなので放っとく事にするが……


「あら、そちらの馬鹿っぽい頭のお二人も、久しぶりね、相変わらずお猿さんの様にキーキー吠えて微笑ましいこと」

「「はあ!??」」

………うん。 相変わらずだ、この女何も変わってない………。


まだ、九条の後方で騒いでいる二人を尻目に九条は再度こちらに目線を寄越し俺達に話しかけてきた。

「そんなことより……陽子、少しだけ高杉くんを借りても良いかしら?」

「あん?………何でアタシに聞く?」

そう言って、武者小路が睨みを利かせれば、それに負けじと九条も目線を剃らさずにいて、一気に場の空気が張り付き、夏だというのにその場だけ冬のような冷気が駆け抜けた気がした………


「落ち着け二人とも…で、何の用だ九条?」

俺は、その場の雰囲気をなんとか落ち着かせるように声をかけた。


「………別に、ただ少し今後について話したい事があっただけよ」

「………話か。……分かった。スマン武者小路、少し席を外すぞ」

依然として睨みあったまま俺にそう口だけで返事を返した九条に、俺は了承の意を返しつつ武者小路に断りを入れて席を立った。


「ふんっ、別にアタシに言う必要無いだろ! さっさと行ってこい!」

周りでは、二人で教室を後にするその様子にクラスメイト達が何故か騒ぎ始め、さらに武者小路の怒りは治まるどころか、増すばかりで俺は軽い頭痛を覚えながら、九条と二人その場を後にするのだった。


………まったく勘弁してくれ。














  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

昭和不良少女物語 幸明 @0101inuyasiki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ