第15話 past

ザアアアアアアアアアアアアッ


雨が降っている。

どうした事だろうか? 何故、雨が降っていると分かるのだろうか?

俺は、武者小路を庇った俺は死んだハズでは無かったのだろうか?

あの時、咄嗟に彼女を庇ってトラックに跳ねられて、気付いた時にはボヤけた視界に彼女が泣いている姿があって………ああ、俺は死ぬんだなと、また泣かせてしまったな………と、元の世界へ戻すと約束したのにゴメンな………と。


それが、最後の記憶であったハズなのに………

何故、雨が降っていると分かるのだろう?

何故、身体に大粒の雨が当たっていると分かるのだろう………


「いつつ………」

ゆっくりと身体を起こして辺りを見れば、自分が血だらけで寝転がっていた事に気付き、骨こそ折れていないものの身体中大小含めて沢山の傷があり、着ていたシャツは雨の影響もあってか赤く染まっていて、立ち上がるのもやっとといった所だった。


「何処だ?………ここは?」

辺りを見回してみれば、自分が今まで見たことの無いような景色が広がっており、目に写る情報だけで言えば家屋は全て瓦屋根で出来ていて、自身が住んでいた町も田舎町であったが、ここはさらに現在の文明から遠く離れた町並みをしているように見えた。


どうやら、自分が倒れていた場所はそんな田舎すぎる町の狭い道路の歩道の様で、見れば隣には自動販売機があり、俺は丁度良いと未だ立ち上がれず座ったままの状態で背中を預けるように寄りかかった。

ふと、

そういえばとポケットを探る。

あれが無ければ非常に困るといった思いから自身のスマホが無事だったことを確かめ安堵した。


「げ、バキバキじゃねえか………」


しかし、ガラスで出来たフィルムはひび割れており、所々自身の血が付着していて画面を見るのには目を凝らさねばならない程だった。


「圏外………?」

だが、画面の右上にはアンテナが立っておらず圏外と表示されており、充電の方は辛うじて残っているといった状態だった。


そこで、俺は自身のスマホのホーム画面を見て驚愕した。


「………1986年2月だと?」


何故だ、どういう事だ?

俺は、2022年の8月にいたのでは無かったのか?

考えてみれば、流石におかしい状況である。

仮にトラックに跳ねられて助かったのだとしても、何故ここに彼女が居ない?

何故、武者小路の姿が見えない!?

何故、交通事故の痕跡がない!?


「まさか………!?」

俺は、幼い頃夢見た記憶を思い出す。

タイムトラベルに憧れ、大きくなったらタイムマシンで過去や未来を旅するんだと夢見た記憶を。

「タイムスリップ?」

自身の怪我の具合や、割れたスマホ、身に付けている衣類等から、この時代に意識だけがタイムリープして来たとは考えにくい………ならば、この時代に身体ごと飛ばされタイムスリップしたと考えるのが全ての状況から妥当と言わざるを得なかった。


「はは………」

もはや、呆れて渇いた笑い声をあげるのが精一杯だった………。

「ふざけるなよ………ちくしょう」

この時代に来たかったのは、俺ではない彼女だったと言うのに………。

今さらそんな夢が叶った所で何の嬉しさも込み上げてこなかった。


「いや、待てよ………?」


………そこで、一つの妙案が浮かんだ。

しかし、それには確かめねばならない………。

ここは、本当に彼女が武者小路がいた世界なのだろうか?

もしかしたら、俺はただ過去にタイムスリップしただけなのかもしれない。

ただタイムスリップというと言い得て妙だが、此処に本当に彼女は存在するのか?

もし、ただ過去に戻っただけなら存在しない筈だ……


そう考えた俺は満身創痍の身体で必死に自販機を掴むように立ち上がるのだった。

「………探すか、彼女の痕跡を………」


……………………………………………………………


ザアーーーーーーーーーーーーッ

 

ビチャッ ズル ビチャッ


あれからどれ程歩き回っただろうか、未だ止むことの無い雨の中、俺は痛む身体を必死に引きずり歩いていた。

やはり、スマホに表示された西暦は正しかったようで、過ぎ行く町並みを見ればどれも一目で過去の物と分かる造りをしていた。


「くそ………目が………」

冷たい雨と流しすぎた血のせいだろうか? 段々と視界がボヤけてきて、そのせいか前に人が立ってるのも分からなかった。


ドンッ


「いってーな、テメエ? うわ、血だらけじゃねえか?」

「何、どしたんだよ? うわ、何だコイツ!気持ち悪りい」

どうやら、ぶつかった相手は背格好から高校生のようらしく、昭和時代のヤンキーそのままといった出で立ちであった。


「………ああ………いや、スマンな」

俺は、一応の謝罪を述べてその場を後にしようとしたのだが………


ガシッ


「まあ、待てよ兄ちゃん、折角の俺の自慢の学ランが汚れちまったんだ、まさか謝罪だけで終わらそうってー訳じゃねぇよな?」

「!くうっ………」

痛む身体を掴まれた俺は、思わずうめき声を上げる。

「っスマン………金は無い………」

「じゃあ、身体で払ってもらうしかねぇな?」


ポイッ


少年がそう言って持っていた傘を投げ捨てたのが見えた。

「死ねや、おらあ!!」

酷く大降りな拳で殴りかかってくるのが分かる。

 

いつの時代も怪我人に優しくない奴らだと………俺はその投げ捨てられた傘を瞬時に広い畳んで、それは恐らく無意識で反撃をしていた。


バアンッ!!!!


「ぐあっ!?………て、テメエ………」


ドサリ………


俺の無意識で放たれた傘による攻撃は、少年の頭を直撃し、倒れさすことになんとか成功した。

「んな? た、達也!? テメエ、達也に何しやがる」

お前らこそ、一目で分かる怪我人に何しやがる?

と、言いたい所だがどうやら、もう身体が限界らしい………


ザシャッ……!


気付けば俺は、傘を杖替わりにしてその場に膝をついてしまっていた。

「へっ! テメエ、見た所スゲェ怪我だが悪いな、こちとら連れがやられて黙ってられる程お人好しじゃねえんだ? 悪いが敵は取らせて貰うぜ?   オラッ!!!」


まったく………お人好し通り越して人でなしである。

だが、俺の良く回る脳内ツッコミもここが限界らしい………後はただただその蹴りを受けるのみであった………


「危ない!!!」


バシィッ!!!


誰か女性の声が聞こえた気がした………。

一向に、来ない蹴りによる衝撃に疑問を思い、俺はゆっくりと閉じていた瞼を上げた。


「………な………んだ?………」

すると、俺の霞んだ目の前には自分が倒した分と合わせて二名の不良が倒れており、その横には長いスカートがちらついて見えて………


「まったく、こんな怪我人を二人がかりでなんて……貴方………大丈夫?」


そう言って、屈んで此方を見る少女は髪型はショートカットで目つきがかなり悪い、しかしそれでいて整った顔立ちをした少女だった。


「………ああ………き…みは…?」

俺は、必死に少女に質問をした。

何故だかとても名前を聞いてみたくなったからだ……


「"ああ"じゃないわよ………まったく、それの何処が大丈夫なのよ? …私は真由美、九条真由美よ。」


「真由美?………だと!?……み…見つ…け……た…」


ドサリ………


彼女の……武者小路陽子の口から聞いていた名を聞いて驚きと共に安堵した俺は、その場で気を失ってしまった……


「ちょっと! 貴方、ちょっと!!!」


彼女の痕跡を見つけた…そんな安心感から………。





















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