第22話 怪異退治のエキスパート

 ランスロットの言ったとおり、町外れには四頭立ての巨大な馬車が縦長の荷車を牽引するように繋がっていた。

 荷台には5メートルほどの長さの何かが布に包まれて置かれている。


 それをランスロットが持ち上げる。


「ヌオオオオオオオッ!!」


 こめかみに血管を浮かばせて苦悶の表情をしているあたり特撮ヒーローばりの身体能力をした彼でも限界だと見受けられる。


「ちょ、ちょっと待て!? そんなのいくらエルドランダーでも載せられないぞ!」

「は? あれだけの走りができるなら大丈夫だろ!?」

「積載重量と牽引重量は別問題だ!」


 数百キロしか積載できない軽自動車でも牽引なら10トン弱の重量を引っ張る事はできる。

 だが、エルドランダーの速度にあの荷車は耐えられない。

 屋根に載せるしかないが、そうなれば重心が高くなり横転の危険性が出てくる。

 どうすれば————


「ソコニアッタカアアアアアアア!!」


 潰れた喉を無理やり拡げながら発したような叫び声がして、ランスロットの背後の地面が盛り上がり、何かが飛び出した。


「ケキャアアアアア!!」

「チッ!」


 ランスロットが荷物を捨て持ち替えた剣を振り向きざまに斬りつける。

 刃は飛び出してきた何かを両断した。

 だが、


「クハハハハ!! ナンダ? そのなまくらワァ!!」

「くっ……やっぱり貴様か! ディアマンテス!!」


 ディアマンテス、と呼ばれたのはフード付きのマントを被った人型のバケモノだった。

 その体表は鉄でできた樹皮のようで鈍色に光っている。

 そして、信じられないことに斬撃によって上半身と下半身に分かたれた身体はすぐに繋ぎ合わさり何事もなかったかのようにしている。


「フククククっ!! 略奪に来たらマサカオマエが護衛をしてるとハナ!! この国も人材不足のようダナァ!」


 ディアマンテスは腕の形状を変化させムチや槍のようにしてランスロットを攻め立てる。

 俺には目にも止まらぬ動きだがランスロットはそれらをすべて躱しているようだ。

 だけど次元が違いすぎて手助けなんてできないぞ……


「鬱陶しいんだよ!! 何度殺しても蘇りやがって!!」


 ランスロットが怒鳴りながらディアマンテスを切り刻む。

 しかし切られた断面から管のようなものが伸ばされ結び合わさってすぐ元の形に戻ってしまう。


「ダカラ! ソンナなまくらでどうにかデキルワケないダロ!! ココがキサマの墓場になるのダ!!」


 ディアマンテスの言ったとおりランスロットが徐々に押されていく。

 運転席でその様子を黙って見ているしかない俺にシンシアが尋ねる。


「あ、アンゴさんっ! いったい何が起こってるんですの!? あの街にいる人……みんなおかしかったしあの人も尋常じゃありませんわ!!」

「俺だって分からねえよ!! ただランスロットが言うには屍鬼の粉を酒に混ぜられてあんな風になったとか」

「屍鬼の…………もしかして! アレっておゾンビとかいうヤツですの!?」

「今更そこかよっ!! この箱入りお嬢様っ!!」

「っ…………イヤですわ、こんな時に誉めそやされても」

「誉めてないって!!」


 俺とシンシアがギャーギャー騒いでいると攻勢を続けていたディアマンテスがランスロットを蹴り飛ばし、馬車の荷車に叩き込んだ。

壊れた馬車の残骸に埋もれたままランスロットは起き上がってこない。


「ランスロット!?」


 あの化け物のように強いランスロットを圧倒したことに俺は驚愕する。

 ディアマンテスは首を傾けながらこちらを睨みつけて歩いてくる。


「まだ生き残りがいたのカ……」

「シ、シンシア! 隠れていろ!」


 俺はシンシアを押し込むようにしてキャビンに下がらせた。

 包丁を再び手に握り、抵抗してやろうと決意するが、無駄だった。

 車の窓をブチ破ってディアマンテスの手が俺の胸ぐらを掴みあげる。

 その腕に包丁を突き立てようとしたが岩に刃物を当てたかのような硬い感触が伝わっただけでダメージは与えられなかった。


「フン……その非力さ。運命持ちではないナ。その車がどんなものかは気になるが……オマエを食ってカラ調べてヤル」


 ディアマンテスはそう言うとアゴを外したかのように大きく口を開ける。

 するとその口の中からもうひとつの口が飛び出してきてこちらに迫ってきた。



 やられる————!?



 と、体を強張らせたその時だった。



「そおぉれぇっ!!」



 掛け声と共にシンシアが白い粉をディアマンテスに投げつけたのだ。

 素っ頓狂な声と謎の攻撃にディアマンテスは戸惑い、シンシアに目を向けた。



「…………なんのマネだぁ!? コムス————」

「【マジェスタ】」


 問答無用といわんばかりにパチンと指を鳴らし、呪文を詠唱するシンシア。


 瞬間、ディアマンテスの体やローブにまとわりついていた白い粉が光り、青い炎を上げて燃え始めた、


「う!? オォオオオオオオオオオオ!!!」


 瞬時に青い炎はディアマンテスの体全体に広がり火ダルマとなる。

 奴は俺から手を離し、地面にのたうちまわった。

 不思議なことに奴の体に燃え広がった以外の炎はすぐに消えて線香のような匂いが漂っていた。

 シンシアはズイッと身を乗り出して悶え苦しむディアマンテスにドヤ顔で告げる。


「オホホホホホ! か弱いお嬢様だと油断いたしましたか! 私はローゼンハイムの錬金術師ですのよ! 錬金術の起源は悪魔や怪異といった剣で殺せないモノ達を葬るために編み出した秘術でございますの! つまり、錬金術師は怪異退治のエキスパート! アンデッドなんて弱点丸出しのザコに過ぎませんわ〜〜!!」


 カタリストをアンデッド特攻の薬品か何かに変換したのか!?

 いろいろ劇物飲まされていたとは聞いていたけれど、まさかディアマンテスみたいな明らかに強い化け物にまで効くとは……


「どうです!? 私スゴイでしょ?」

「ああ……俺の確認取るまでもなくスゴイよ。君は」


 今日だけで何度シンシアに救われているのか。

 次第に頭上がらなくなりそうだな。


「くぉおおおおおおお!! キサマアアアアアア!!」


 青い炎に体を焼かれながらそれでも立ち上がり、殺意を向けてくるディアマンテス。

 車を急発進させようとするが、奴が再び襲いかかってくる方が早いか————————


「ナイス援護だ。アンゴ」


 鉛筆で描いた絵に消しゴムで線を引いたようにディアマンテスの体が断たれる。

 その線が一瞬のうちに何十本も。

 地面に文字通り崩れ落ちたディアマンテスの背後には剣を振り切ったランスロットが立っていた。


「ラ…………ランスロットォオオオオオ!!」


 生首状態で吠えるディアマンテスをランスロットは見下ろして不敵に笑った。


「細切れにされても元気なヤツめ。だが、さっきまでとは違うみたいだぜ」


 バラバラにされたディアマンテスが体をくっつけようと断面から管を伸ばそうとする、がその管も炎に燃えて他の部位と結びつかない。

 いま、奴の再生能力は死んでいる!


 エルドランダーが発進し加速していく。

 できるかぎりその勢いを殺さず方向転換してさらにアクセルを踏み込む。


「やっておしまい、ですわ〜〜〜!!」

「ああっ!! くたばりやがれええええええええっ!!」



 時速100キロ近くになったエルドランダーに轢かれたディアマンテス。

 すでに体が脆くなっていたのもあって割れた土器のようにバラバラになり、風に吹かれて消えていった。



【死霊術師ディアマンテスを倒した。

 経験値を180000獲得した。

 エルドランダーはレベル上限に達した。

『クラスチェンジ』が可能です。

 実行しますか?】

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