第4話 エルドランダーvsゴブリン

 スマホでまとめサイトやら掲示板を見ると最近やたら漫画広告が目につく。

 中でもゲームみたいな異世界で冒険やらスローライフを送る系の奴。

 もう食傷気味だし、どいつもコイツも似たようなツカミだというのになんでこんなに需要があるのかとイライラしたものだが……もうちょっと読んでおけばよかったと思うよ、マジで。


 ゴブリンに襲われた時の対処法なんて日本の教育じゃ学ばないからさあ!


「ボゲボゲボゲ!? ベビゴジュイ!?」

「ビンバーぺパパ!」


 フロントガラスには3匹のゴブリンが張り付いてこっちを見ながら奇声を発している。

 少なくとも友好的なことを言ってはいないだろう。


「なんなんだよ!! チクショおおっ!!」


 ビッビーーーーッ!!! ビッビーーーーッ!!


 苛立ちながらクラクションを叩き鳴らすとゴブリンたちは、ウギャウギャ喚きながらフロントガラスから飛び退いた。

 おそらく自動車なんて見たことがないのだろう。

 けたたましい鳴き声の怪物とでも思っているのだろうか、途端に警戒し始めた。


 フロントガラスにベタベタと奴らの手形や体液が張り付いているのを見てカッとなった。

 なぜなら俺は液晶の保護シールをなるべく外さずに使うタイプの人間だからだ。


「…………オーケー、分かった。お前らは俺を殺そうとしてるんだよな。それはつまり、殺される覚悟があるってことだよな」


 ゴブリンたちがじわじわと再び近づいてくる。

 手には石ころを持っている。

 今度はアレでガラスを破るつもりなのかもしれないが、そんなことさせるか。


 俺はキーシリンダーに刺さったキーを回した。

 キュルキュルと甲高い音を立ててセルモーターが回り、ブルルルルーーー、とエンジンが始動した。

 その音と振動にゴブリンたちは警戒を強める。


「良かった。ちゃんと車も動く。これで問題なく————」


 ギアをドライブに入れてブレーキペダルで押さえつける。

 ハンドルを握る手に力がこもり、俺は吠えた。


「オマエラ皆殺しにできるってもんよぉおおおおお!!!」


 アクセルをベタ踏みした瞬間————


 ブオオオオオオオオオオオオオッ!!


 エルドランダーのエンジンが凶悪な咆哮を上げる。

 車は万人が持てる兵器だ。

 世界最強の格闘家であっても自動車の衝突に耐えられない。

 人間相手なら色々割り切りが必要だったが異形の怪物、しかも敵意満タンなら躊躇うことなく俺はアクセルを踏む!


「ギ……ギブえ!? ビブビブ!!」


 慌てた様子で逃げ出すゴブリンたち。しかし、


「遅ええええっ!!」


 ドバガシュッ!!!!


 まず1匹背中から思い切りハネた。

 アスファルトに比べれば柔らかな地面だが総重量5トンはあるだろうキャンピングカーが時速60キロで思い切りぶつかれば耐えられるのはクマやゾウぐらいだ。

 案の定、撥ねられたゴブリンは動かなくなった。


「つぎぃっ!!!」


 俺は方向転換し他のゴブリンを追いかけた。


「ケーギャッハ!? ゲメゲメゲ!?」

「分からねえよ! 日本語喋れ! クソがアアアアアア!!」


 ベキキキッッ!!


 倒れたところを思い切り踏み潰した。

 これで2匹目!


「残り1匹はどこだアアアアアア!!」


 俺は吠えながら見渡すが気配がない。

 そこでギアをリアに入れバックモニターを起動させた。


 最後の1匹は車の後ろにうずくまっていた。

 頬まで避けた口をにたりと歪ませている。こちらを出し抜きうまく隠れたつもりなのだろうが、


「バックしまーーす!!」


 ベキベキベキベキベコぉ!!


「ギィエーーーーーー!!」


 たしかに轢き殺した感触とともにゴブリンの断末魔の悲鳴が上がった。


「やったー! ゴブリンを3匹倒したー!」


 やけっぱちで叫ぶ俺。

 するとその直後、


『たらたらたったった〜♪』


 どこかで聞いたことがあるようなファンファーレが車のスピーカーから鳴り響いた。


「ほへ?」


 備え付けのカーモニタに目をやる。

 そこには黒い画面に白い文字で、


【ゴブリンを3匹倒した。

 経験値を15獲得した。

 エルドランダーはレベルが2に上がった。

『音声コミュニケーション機能-低級-』を手に入れた】


 と書かれている。


「まるでゲームのテキストみたい……というか、そのものだよな。まさか、異世界もののマンガ広告でよく見る『ステータスオープン!』的なアレなのか?」

『おおむね、せいかいです。マスター』


 と、いきなりカースピーカーから女の声が聞こえてきた。

 いや、女の声というより読み上げソフトで作った音声のようだ。


「……なんなの? こんなオプション付けてもらった覚えないんだけど」

『てんせいするときに、カミさまに【運命】をもらいました』


 てんせい……転生か。

 ということは確実にここは異世界で、だから転生特典でこんなトランスフォーム的な何かになってしまった訳で……ん?


「ちょっと待て。俺は神様なんて会ってないぞ。事故って次の瞬間にはこの世界にいたんだから」

『そうです、マスター。てんせいしたのはワタシだけです。マスターはワタシのオニモツとしてこのセカイについてきたのです』


 カーモニターに表示されているのはガタガタの線で書かれた説明図。

 転生するエルドランダーの中に荷物やエンジンと一緒に宇佐美安吾————俺の名前が書かれている。


「……お前のオマケかよ。でもまあ、あのまま死ぬよりかはマシだよな。マンガみたいに転生とかいってガキの頃からやり直すのも、兄弟の確執とか追放とか没落とかに巻き込まれそうで静かに暮らせなさそうだし。人間以外の種族になって人間性失っていくのも性別が変わって男連中に色目使われるのも無理だしなー」

『マスター、そういうマンガが、すきなのですか?』

「嫌いだよ」


 ただあれだけマンガ広告が大量に出てきて胸糞部分ばかり見せられてたからスッキリしたくて続きを読んでしまっただけさ。


「はー、やれやれ。とりあえず飯食おうっと。なあエルドランダー。出発前に買い込んだ食糧ももちろん一緒なんだよな」

『もちろん。てんせいまえとおなじひんしつをいじしています』


 この微妙に聞き取りにくい喋り方、レベルが上がれば改善されるのかな?

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