第7話 愛に結ばれて

 「レッツゴー!」


 隣りにいるあまねはそう叫びペダルに掛けた足に力を込める。あまねはうれしそうだ。拓馬も気分がノッてきた。


 「俺についてこいよ!」


 拓馬はそう言うと自転車を漕ぎ始めた。


 堺の街を縦断する阪堺電車に沿って二人は風を切り裂くように自転車を漕いだ。二人は夏の熱風に包まれ、二人の心は今にも燃え上がりそうだ。


 「たくまっ!手つなご!」


 あまねはそう言うと、自転車を漕ぎながら左手を差し出した。


 拓馬はあまねの手を取った。やや不安定なあまねの手は少し汗ばんでいて、拓馬の手より小さかった。


 「あまね!行きたいところあるかっ?」


 あまねの返答はなかった。

 拓馬の声は夏の熱風に溶け込み、あまねには聞こえていないようだった。


 拓馬はあまねの手を離した。


 胸がドキドキして耐えられないから。

 

 拓馬はあまねの方を見た。



 あまねは泣き顔をしていた。


 あまね、どうしたんや?

 

 なんでそんな顔してるんや?


 なんかあったんか?


 「あまね、なんちゅう顔しとんねん」


 拓馬はからかうように言葉を投げかけた。



 「ごめん。なんか泣けてきた。あたしおかしいね」



 あまねは震えた声で言った。


 二人は悠々と自転車を漕いでいる。


 しかしあまねの感情は不安定だ。



 「あまね、まじでどうしてん。さっきまであんなに元気やったのに」


 「あたし、うれしいの…、こんなに仲良く男の子と話したのはじめてだったから」


 そんな事実があったんか…


 前の学校ではうまく友達と馴染めてなかったのかなと拓馬は思った。


 「そうなんか」


 二人は赤信号の前で止まった。


 拓馬はあまねを見る。


 あまねもこちらも見た。


 あまねはやさしく微笑み、赤い舌をペロッと出した。


 あまねはおどけているのだ。


 「アホ、子供みたいなことすんな」


 ころころと変わるあまねの繊細な感情は魅力的で美しい。さっきまで泣いていたのに…


 信号は青に変わった。


 二人の自転車はまた進みだした。


 「ねぇあたしたちどこに向かってるの〜?」


 あまねは言った。


 「大仙公園や」


 「あの仁徳天皇陵のそばの公園?」


 「せや!」


 二人はいつの間にか大仙公園に着いていた。


 二人は自転車を駐めて、公園のベンチに座った。


 「なあ、なんでさっき手つなごって言ってきたん?」


 拓馬は半ば答えを予想してあまねに訊ねてみた。


 「拓馬のことが好きだから」


 あまねは拓馬の目をじっと見て言った。


 

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