第5話 あまねのココロ
あまねは大豪邸らしい、大きめのリビングルームの白いソファーに、ショートパンツから伸びる艷やかな生足を投げ出し、ゴロンと寝転んでいた。
お手伝いの渡辺がそこへやって来た。
「あまねお嬢様、今よろしいですか?」
優しく諭すような丁寧な話口調だった。
「なぁに?」
あまねは渡辺の方を見ずに、目をつぶったまま言った。あまねは眠たかった。
「あまねお嬢様は少々人に対して失礼なことをおっしゃいます。さっきの自転車屋さんでもそうです。街の自転車屋さんで、確かに売っている自転車の数が少なかったですが、そのことを口に出してはいけません。そしてあまねお嬢様はお嬢様なのですから、もう少し口数を少なくされたし」
渡辺はやや申し訳な下げに恭しく言った。
あまねは渡辺も渡辺なりにあまねにしっかりしてほしいと思っているのだろうな、と思った。
でもあまねにも思うところはある。
「うるっさいなぉ〜、そんなことわかってくるけど口から出てくるのだよ。思ったことを言、っ、て、る、だ、け」
あまねは渡辺の気持ちを無視するように、甘ったるくふざけた言い方をした。
そんなことどうでもいいじゃん。
人に対して失礼だとしても、あたしには悪気なんてないんだし。なんて言ったって、考えていることが、いつの間にか口から出ちゃうんだもん。
渡辺の表情は曇ったままだ。
「あまねお嬢様、大変おっしゃりにくいのですが、お買いになられた自転車なんですが、あれで通学はお止めください。あまねお嬢様は持病もありますから、通学は私が責任をもって、車で送迎します」
あまねは注意欠陥多動性障害を患っていた。急に走りだしたりしてしまうから、安全のために車で通学しているのだ。
渡辺の言葉を聴いて、あまねの心は闇色になった。
なんでいつも私の行動を制限するの?
なんで私の邪魔ばかりするの?
私には自由がないの?
私はもっと私らしく生きたい!
あまねは叫んだ。
「うるさい!うるさい!うるさい!」
あまねは素早く立ち上がり、渡辺を威圧するように詰め寄った。
「もうあたしらしく生きていいでしょ。あたしもう中学生っ!自転車で通学したい!蒼井くんと一緒に自転車で学校に行くって約束したの!」
「その気持ちはわかりますが、、、」
あまねは渡辺の言葉の途中で、リビングルームのドアをバンっと締めて、自分の部屋に駆け込んだ。
あまねは勢いよくベッドに倒れ込んだ。そして、枕に顔を埋めた。
「なんであたし病気なの…」
あまねは誰にも聞かれないぐらいの小さな声でそっとつぶやいた。
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