相部屋までは我慢するけど、なんでベッドがひとつなの!?

綾乃姫音真

今日から合宿!

/ドア開閉音


波矢はや

「この部屋がわたしと紗矢さや先輩の部屋かぁ」


波矢

「なんかふつーだね」


紗矢

「普通じゃないでしょうが、二人なのになんでベッドひとつなのよ。聞いてないんだけど」


/ドサッとバッグを床に置く音


波矢

「え? わたしは先生から聞いてたよ? 人数の関係で一部屋だけ個室を二人で使ってもらわないとなんだが、紗矢と波矢なら大丈夫だろ。名前だけなら姉妹みたいだしって」


/バッグを置く音


紗矢

「待って、そもそもここ個室なわけ? 入った瞬間違和感あったはずだわ……去年より狭く感じたし」


波矢

「紗矢ちゃんって去年は誰と一緒だったの? 副部長さんとか?」


紗矢

「正解だけど……あと、先輩のことちゃん付けで呼ぶな。うちの学校ってそういう先輩後輩にうるさいの多いんだから」


波矢

「わかってるよ? だから紗矢ちゃん相手の時かつ、二人っきりの時だけにしてるよー」


紗矢

「まぁ、昔っから紗矢ちゃんって呼ばれてるから先輩呼びも違和感しかないのも事実なのよねぇ。むしろあんたはよく切り替えられるなって感心するわ」


波矢

「猫かぶる慣れ?」


紗矢

「猫かぶりきれてないから……まぁいいわ。話を戻すけど、副部長と一緒だったわね、去年は」


波矢

「二年生だと一番仲よさそうだもんね、でも部屋の組み合わせってクジかなんかでしょ? よく一緒になれたよね。そういう意味だと今回のわたしと紗矢ちゃんもだけどね」


紗矢

「は? あー、そっか。あんたは……」


波矢

「え、なにその反応。もしかして、部屋割りって自分たちで決めてるの!? わたし知らないんだけど!」


紗矢

「ほら、あんたが委員会で遅れてきた日あったじゃない? あんときに決めたのよ」


波矢

「ってことは、紗矢ちゃんがわたしのことを選んでくれたってこと? にへへっ」


紗矢

「嬉しそうにキモい笑い出てるとこ悪いけど、押し付けられた側だから」


波矢

「へ? どういうこと」


紗矢

「あんた……女の子大好きじゃない?」


波矢

「うん!」


紗矢

「待ちなさい。嬉しそうに速攻で肯定しないの」


波矢

「あ、一番は紗矢ちゃんだよ? そんなに嫉妬しないで大丈夫だからね?」


紗矢

「うっさいわっ、誰が嫉妬してるって!?」


波矢

「紗矢ちゃん」


紗矢

「……はぁぁああああっ」


波矢

「紗矢ちゃん、そんな深い溜息なんて吐いたら幸せが逃げちゃうよ」


紗矢

「……疲れるわぁ、私なんでこんなのと幼馴染やってんだろ」


波矢

「幼馴染って答え出てるよね、それ。そして紗矢ちゃんはこんなわたしから離れずに居てくれるから好きだよ? 紗矢ちゃんはわたしのこと嫌い?」


紗矢

「私も嫌いとは言ってないじゃない……というか嫌いだったらとっくの昔に距離置いてるってば」


波矢

「紗矢ちゃんの嫌いじゃないは好感度高めだよねぇ、くひっ」


紗矢

「……キモッ」


波矢

「それでわたしが女の子好きだからなぁに?」


紗矢

「話題の戻し方よ……こほん、まぁいいわ」


波矢

「わくわく」


紗矢

「口に出してまで期待してるとこ悪いけど、真実って残酷なものよ? 一年生はもちろん私ら二年生、三年の先輩たちもあんたと同室だとセクハラじゃ済まないレベルで襲われそうだから嫌だってさ」


波矢

「……えぇ」


紗矢

「待てこら、それ私の反応だから。幼馴染だから波矢のスキンシップにも慣れたものよね、とか、実際のとこいつも被害に遭ってるのに幼馴染でいられるんだから今回も仲良く同室でいいんじゃない? って押し付けられた私の反応だから」


波矢

「わたし、そこまで見境なく襲ってな――いよ?」


紗矢

「自分で思い当たるフシがありすぎて疑問形になってるじゃないのよ! それが答えでしょうが!」


波矢

「じゅるっ」


紗矢

「まって、私の身体舐め回すように見ながら変な音立てないでもらえる? 真面目に身の危険を感じるんだけどっ」


波矢

「大丈夫大丈夫、一つのベッドに二人なら抱きまくらにしても事故じゃないよねーなんて思ってないよ?」


紗矢

「被害者の反応を窺いながら犯行予告するんじゃないの!」


波矢

「……」


紗矢

「え、急に黙らないで欲しいんだけど」


波矢

「冷静に考えると紗矢ちゃんって普段自分のベッドで抱きまくら使ってるよね?」


紗矢

「……えぇ、だから?」


波矢

「むしろ紗矢ちゃんが寝ぼけてわたしに抱きついてきそうじゃないかなって。ほら、癖ってつい出ちゃうことあるもんね」


紗矢

「……期待してるところ悪いけれど、絶対にないから。ありえないから」


波矢

「紗矢ちゃん、フラグって知ってるよね? ゲームとか好きだもんね?」


紗矢

「……」


波矢

「急に黙ってどうしちゃったのかなー? 年下の幼馴染を抱きまくらにしてる想像でもしちゃったのかなぁ?」


紗矢

「なわけないでしょ」


波矢

「身長差あるし、小柄なわたしはきっと腕にすっぽり収まっちゃうんだろうなぁ」


紗矢

「そ、その語尾やめなさいよ、イラつく」


波矢

「図星だよね……紗矢ちゃん、すぐ表情に出るからバレバレだよぉ?」


紗矢

「あーもう! あんた面倒くさい!」


波矢

「って、紗矢ちゃん時間大丈夫? 荷物部屋に置いたらすぐに食堂に集合じゃなかったっけ?」


紗矢

「話が長引いてるのほぼあんたのせいだと思うのよ」


波矢

「自覚あるよ? けどそれに最後まで付き合ってくれる紗矢ちゃんも優しいよね」


紗矢

「ちっ」


波矢

「キス音ありがとう、すごく嬉しいよ!」


紗矢

「どう考えても舌打ちでしょうが!」


/鐘の音


紗矢

「あ、まずい」


波矢

「初日の初っ端から遅刻は怒られちゃうよっ」


/走り出す音(一人目


紗矢

「わかってる!」


/走り出す音(二人目

/ドア開閉音




 


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