空蝉の頃は彼女の音を届けた

三日月静

空蝉の頃は彼女の音を届けた

頭が痛くなるほど綺麗な空

ビルの屋上に止まる大量の鳥

左手の人差し指には知らないうちにできた切り傷

時間はいつも通り

疲れたことすら分からない感情が体を渦巻く

何も感じない

何も感じれない?

幸せを願って上京して来たはずなのに、それすら叶わなかった

気づいたら、小さな幸せすらも感じられなくて小さな驚きすら消えてしまった

どうやったら、この感情は消えてくるだろうか?

でも、きっと消えてくれない事を私は知っている

わがままだろうか?自己中だろうか?

幸せを願う事は。幸せを感じたいという事は

ただ、街の幻想が私の瞳に焼き付いてくる

何も無い、何もない

こういうのってなんて言うんだろう

なんて言ってたけ

覚えてない、覚えていたはずなのに。忘れた

20××年、私、トキノカエデはずっとやっていたバンドを辞めた。そこそこの人気があって、テレビにも少しだけ取り上げられて、これからというバンドだった。

唐突に現れた酷い虚無と無感情

原因はこれだけ

これだけ

陽射しだけが私を撫でる

月光だけが私を叱ってくれる

そんな私が最後に書いた曲

タイトルは「空蝉に歌う」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

空蝉の頃は彼女の音を届けた 三日月静 @hakumukagamiya

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ