謎を追いかけて 3
シノビの少女は小半と名乗った。珍しい名前であるが正真正銘本名だという。
「小半はなんでここにきたの?」
「あたしはシノビだからね、たまには依頼で物を盗んだりするわけだよ。今日はここにある戦国刀を盗みに来たんだけど面倒事になっちゃったね」
小半のおかげで窮地は脱したものの解き放ってはいけない存在を放ってしまったことに四季は責任を感じていた。
松田組の組員たちが原の相手をしている間に四季は剴の下へ行くことに決めた。
「ねぇねぇ、それあたしもついていっていいかな」
「いいけど、小半は自分の目的があるんじゃないの?」
「どうせ中はぐちゃぐちゃだし今行っても危ないだけだしね」
「まぁ、そういうことなら」
四季は小半を連れて共に再び剴の下を訪れた。
「生きてたか」
「原さんのこともっと詳しい教えててください。あれはどういうことなんですか」
「あいつは元々気性が荒い正確だった。町にいた頃から常々薫から相談されていたんだ」
「相談されていた……。あの一つ気になったんですけど、薫さんは剴さんと原さんが双子であること知っているんですよね」
「あぁ」
「で、剴さんが原さんに成り代わっていると。じゃあ、剴さんがどうなったことになってるんですか?」
「薫には俺が死んだことにしている」
剴は原のことについて相談を受けていた。原の気性は荒く、剴と同じく体術の才能があり喧嘩っ早いところもあったせいで町では厄介な存在だった。
同時に曲がったことを許せない正確でもあり、松田組の存在を憎んでいた。
組からの締め付けが苦しくなると、いよいよ我慢ならなかった原は単騎で支部へと行こうとした。誰がみても無謀だとわかることであり、薫も心配しそのことを剴へと話した。
剴は薫に惹かれていた。気丈であり優しい性格をもつそんな薫のことを好きになりかけていた。好意が強くなると同時に、原の薫に対する言動や行動に対し憎悪が沸き上がった。
「支部に侵入したときに原が死んだと言ったが、正確には違う」
「どういうことですか?」
「俺が殺したんだ」
四季は感情の歪みというものを知らなかった。求めるものは自らの手々、だが決して愛情に飢えていたわけではない。
厳しい修行の中、常に村の人々から過保護なまでに尽くしてもらった。
だからこそ、純粋な愛情は理解していた。しかし、剴がもっていたのは純粋な愛ゆえに、兄弟の絆を壊すことを選んだ歪んだ感情だった。
原は松田組の人間に殺されたわけではない。松田組の人間になるために、組長がお互いを殺しあわせたのだ。
「組長はずっとそこにいたんだ。支部の組員がやられていくのを理解しながら俺たち野放しにた」
「でも、どうして原さんを」
「薫は原の気性の荒さに参っていた。このままでは薫がおかしくなってしまう。だから、あいつを殺して俺が成り代わった」
愛のために兄を殺した。
歪んでいながらも、あまりにも純粋な愛。
剴がここまで原として成り代われたのは、その立場を欲していたからだったのだ。
「だか、俺が捕まった瞬間わかった。組長は俺ではなく奴を選んだんだ」
「原さんはおそらく刀を盗むために人を殺しています」
「刀……。そうか、そういうことか。奴が奪ったのは普通の刀じゃない。戦国刀だ」
「戦国時代の武将の魂が宿る刀……ですか」
「常識を覆すほどの力がある。例え素人が握っても並みのサムライなら勝てんだろう」
四季には想像ができなかった。刀はあくまで武器であり、それを扱うものの技量で発揮される。
例えどんな物も一刀両断できる刀でも素人が握れば斬れやすい刃。達人がもてば全てを斬る絶対の刃になる。
鍛練や修行の先にこそサムライの真価が発揮されるとばかり思っていたのに、もし握るだけで強くなれる刀があるのなら、それは間違いなく悪用される。
「原はどうなってる」
「私が牢屋の扉を開けてしまって外に」
「どうせ組長には勝てないだろうが、組長なら奴が俺を殺すのを楽しむだろう。時期に来るぞ」
気性は荒いとはいえ愛していた存在を奪われ、弟に殺され、原という存在さえ奪われ、自由を奪った相手を野放しにておくはずがない。
四季は選択を迫られた。
あまりにも純粋すぎる愛のために兄から全てを奪った男か、憎悪と復讐に支配された男。この因縁に決着をつけるために戦うか、それとも時の流れにまかせるか。
いや、答えは決まっていた。
だが、それを第三者が介入していいのか悩んでいた。
原は止めなければいけない。剴の行動の全てを肯定できるわけではない。二つの考えが四季の動きを止める。
そんな時、小半が言った。
「四季ちゃん、もっと純粋な視点で考えなよ。そこが四季ちゃんのいいとこなんだから。悩んだり考えたりは後回しに限るよ」
無意識の内か。四季は怪物との死闘から少しだけ考えが変わっていた。同じ命でありながらそこに優劣をつけなければいけないことに疑問があったのだ。
無論、敵意に対しては立ち向かわなければならない。しかし、自らが首を突っ込んだとは言え、終止符を打つ覚悟ができていなかった。
四季はわかっていた。原を止めるには殺すしかないと。
「私が人を斬っていいのかな」
「誰かを斬ることに許可なんていらない。誰もそんな権利は持ってないんだから」
「だったら、私がやらなきゃいけないこと、やろうとしてることに正義はあるの?」
「正義はすべて終わったあとにわかる。四季ちゃんは何をしたいの?」
世直し、漠然とそんなことを考えていた。
組の存在は放ってはおけない。怪物が人襲うのを見過ごせない。それを止めるための手段は限られている。
そして、四季にできるのはたった一つ。
積み上げてきた修行の日々をすべてぶつけて斬ること。
その先にしか世直しはないのだ。
十三歳の少女の決断にしてはあまりにも酷すぎるのものだったが、四季はまっすぐな目で答える。
「世直しをする。そのために斬る必要があるのなら私は斬る!」
その時、ゆっくりと誰かが近づいてきていた。
「誰が、何を、斬るって?」
そこには腰に刀を据えた原の姿があった。
松田組の人間がこんなとこに簡単に入れるはずがない。すでに警察にも手が回っているのだ。
「剴さん、私が戦っている間に逃げてください。それくらいなら壊せるんでしょう」
「いいのか」
「元よりそのつもりだったのなら遠慮はなしです」
「君にはお見通しか」
「見たくなかったです」
剴は渾身の拳を放ち扉を破壊した。拳からは血が大量に流れ歪な形へと変化している。
「加勢はできないぞ」
「サムライなめないでください」
四季な声には怒りがこもっていた。
ここで剴にあった時から、剴はすでに四季を利用しようと考えていたのだ。計算ではない、直感で純粋な四季がなにかをしてくれると剴は思っていたのだ。
まんまとそれに乗せられた四季はその結果原を放ち剴の思惑通りに進んだことに怒っていた。
「私は原さんと剴さんのことなんてもうどうでもいい! 帰りを待つ薫さんと私の責任をとる!」
「かかってかいよガキ。ひよっこサムライに越えられない壁を見せてやる。――蹴散らせ、
それは分厚く、長く、刀としての鋭利さを残したみたことない刀とへと変化する。
戦国刀義光。怪力にまつわる逸話が刀に再現されていた。
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