第33話 ロイの小さなお節介
「入れ違いになってしまったようだね。遅くなってしまってすまなかった。もしかしてまたライラ嬢に怖い思いをさせてしまっただろうか」
そう言いながらロイは遅れてやってきた兵にゲルトの身柄を渡した。
ゲルトは大人しく連れられて行く。こうなることはわかっていただろうに、それでも構わないとばかりに聖女の力を見たがった彼。
取り憑かれたのは私だけではなかった、とライラは唇を引き結ぶ。肩を落とした姿はどんどん小さくなるが、彼の足は最後までふらつくことはなかった。
「……ロイ殿下」
「嫌だな、君にはそんな他人行儀に呼ばれたくないって前も言ったでしょう」
満面のキラキラ笑顔。
う! と思う間もなく、二人の間にすっとアルビーが立つ。牽制するようにロイを見た。
「はは、なんだい。いきなり。君が僕の邪魔をするなんて?」
「……ライラが嫌がるだろ」
思ってもみない理由にライラどころかロイまでも驚いていた。
アルビーが! 堂々と私を気遣ってくれてる!? でもこのタイミングは違うというか! できれば巻き込まないでほしかった!
「へえ。しかしそんなに嫌そうには見えないが」
案の定、ロイの視線はライラへと戻る。アルビーと同じ顔だと知ってしまった今、どことなく意識してしまう。
ライラは話と視線を逸らすため、連れて行かれた彼を話題に上げることにする。
「ええと、ゲルト、さん、は……この後どうなるのでしょう」
優しいロイは面白がる目をしたまま、それに乗ってくれた。
「ああ。彼にはこれから話を聞きに行くよ。やったこと、やっていないこと、やった理由に、他に仲間がいるのか。いろいろ聞かなければならないことは多い。先ほど様子を見たところ、逆らう意思は見えなかったから、手荒いことはしなくて済むかもしれないが……まあ彼次第だろうね」
拷問を受けるかもしれないということだろうか。
そう考えると可哀想な気がしてくる。ゲルトには同情心が芽生えてしまったのだろう。「聖女の力」に取り憑かれた同士として。
「……もし、聖女の力を私が自由に使えるようになったら、彼に見せてあげてもいいでしょうか」
「ああ。構わないよ。それでライラ嬢の気が晴れるなら」
王子様たる微笑みで、ライラを気遣ってくれる。さすがね、と感心しながらありがたく受け取った。
「そういえば、ロイ殿下はこちらへ魔術で移動されてきたのでしょうか。先程、別の空間から出てこられたように見えましたので」
何も無い所からロイの顔が出てきて、ライラは内心驚いていたのだ。
「ああ。あれか。あれはルーンのおかげ。僕には魔術は使えないんだ、残念ながらね」
「! なるほど。ルーン様でしたか。姿は見えませんが、もしかして今もどこかにいらっしゃるのですか?」
「……いや、急いで僕だけ飛ばしてもらったんだ。空間移動は結構魔力を使うみたいで、ルーンは少し時間がかかるとは思うが、こちらへ向かっている」
へえ! 高度な魔術なのね。あのルーン様の魔力を削ぐくらいなんて!
ルーンに教えてもらった身として、彼の凄さは多少なりともわかっているつもりだ。目を輝かせた。
しかし一人、納得していない人間がいる。
アルビーのもじゃもじゃ頭は、固まってしまったかのように前髪を掻き上げた形のままだ。
ロイへと文句を言う彼は、花のアザを隠そうとはしなかった。
「……お前、いつからいたんだ」
「…………ん? それはアルビーが僕に声をかけたときから」
「本当か?」
「……本当に。疑うなら、僕を飛ばしてくれたルーンに聞くといい」
そこまで言われて、アルビーは諦めたようだ。
「いや、いいよ」
「それならよかった」
ロイは心から満足したように頷き、アルビーとライラを交互に見た。彼の浮かべる笑顔を見るのは何回目だろう。
「じゃあ、僕はゲルトの話を聞きに戻るよ」
王子直々に話を聞くのかと驚いたが、彼に短剣を握らせたのが自分であり、魔術師団の副団長という地位にいることもあって、ロイが対応するそうだ。
足を進めようとして、最後にロイはアルビーに向かって額を指した。
「……君はライラ嬢に、本当に感謝した方がいいな」
え、何。どういうこと?
アルビーは「言われなくともわかってる」と言い、立ち去るロイに舌打ちした。
ライラだけが理解が追いつかずに一人疑問符を浮かべるのだった。
──ガーデンの二人から十分に離れた頃。
ロイの隣に空間の割れ目ができる。
首を傾げたまま、地面に降り立ったのはルーンだった。
「殿下いいのー? 本当は危なくなったらすぐに出ていくつもりで近くにいたんだって言わなくて。僕から言うのもおかしいけど、ライラのポイント上げるチャンスなのに」
急に出てきたはずだというのにロイは一切驚かない。
「いいさ、ルーン」
「僕もいたのに、変な嘘で顔を出せなくなったんだけど? 僕の魔力が足りないなんて言ってさあ」
「はは、すまないな。……それを言ってしまえば、バレてしまいそうな気がして」
きょとんとしたルーンだったが、数秒置いてしたり顔で笑う。
「あ~、アルビーの顔を隠す癖、やめさせたがってたもんね、殿下」
そういうことだ、と唇に人差し指を当てる仕草は、色気に溢れ、たいそう絵になっていた。
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