第六章:New Deal

(1)

「ねえ……ちびすけさん」

 夏休みも後一〇日ほど……。

 でも、その夏休みの間に世界はすっかり変ってしまった。

「なんだ?」

「何で、あたし達人間は……爬虫類人間には、あんな酷い事をするのに、恐竜の事は、あっさり受け入れたんだろ?」

「何となくの感想だ……。お前ら人間とは、色々と脳味噌の作りが違う俺達だから、俺達はあんまり持ってないが、大概の人間は持ってる癖みたいなモノが見える」

「へっ?」

「人間は……自分に似てるが、少し違うと見做した相手を差別する習性が有るようだ。多分、人間が俺達恐竜に比べて群れて暮す習性が有る事の裏返しだろう」

「そ……そんなモノかな?」

「人間は群れる習性が俺達より強い……ように思う。なので、群れの中の『当り前』から大きく外れた奴を……危険な異分子と見做すんじゃないのか? だから……俺達のような何から何まで人間と違う連中よりも……体格も生活や行動のパターンも……群れに帰属しようとする習性や本能までも人間と似てるのに、それでいて決定的に人間じゃないレプタリアンどもを、いつの間にか自分達の群に入り込んで、自分達の群の『当り前』を内部から別物に変えてしまう危険な連中と見做してるんじゃないのか?」

「う……う〜ん……」

 SNSからは、いわゆる「インフルエンサー」が消え去った。

 まぁ、日本の場合は首都圏に住んでた人達が多かったんで、東京が焼け野原になった時に、結構な数の「SNSインフルエンサー」も死んだらしいけど……ここんとこの爬虫類人間大虐殺で、外国でも多数のSNSインフルエンサーが殺された。

 関西の大学の教授でニセ科学批判とかで有名だった人が「今のレプタリアン識別方法では、人間をレプタリアンと誤認する可能性の方が高い」とSNSで言ってたけど……文系コースの子でもどこが間違ってるか判るような計算間違いを指摘された挙句、レプタリアンだとバレて殺された。

 いがみ合っていた日本の周辺国は一致団結した。レプタリアンに対抗する為に。

 もっとも、政治や外交や軍事では「レプタリアン」と「白人」がゴッチャになる事が多いけど……。

 お父さんは……韓国軍が対北朝鮮用に持っていた大量の武器の一部を寄贈されて出来た自警団に入り……週に1〜2回、台湾軍やベトナム軍の人から銃の扱い方の訓練を受けるようになった。

「ねえ……ずっと恐竜さんたちは、この時代に居るの?」

「ああ……この時代の自然の中で、人間が滅ぼしてしまった動物の代りをやる。まぁ……レプタリアン達が滅びて人間たちの文明が変っても……温暖化なんかは百年二百年じゃ元に戻らないだろうから……そうだな……人間が居なくなっても、その後、千年ぐらいの間は……この地球は人間にとっては地獄だが、俺達恐竜にとってはすごしやすい気候のままだろう」

 どう考えても……地球は人間の惑星ほしから恐竜の惑星ほしに変る。下手したら人間は滅びる。

 でも、大多数の人間は……明日の生活と、爬虫類人間を殺しまくる事の方に夢中になっていた。

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