(3)
「で、何で、ここなの?」
「そりゃ、『正義の味方』稼業
あたし達は熊本市内の繁華街に来ていた。
あたし達と言うのは……あたしと真子ちゃんとヌイグルミのフリしてるスーちゃんだ。
だから、
日本を滅ぼしたんだぞ。東京を焼け野原にしたんだぞ。
町中をライフル担いで迷彩服着てる人達がウロウロしてたり、暗めのグリーンの明らかに軍用車にしか見えない車がやたらと走ってる以外は、とっても平穏だ。
なお、ここで言う「とっても平穏」ってのは、その軍人さん達と軍用車が居さえしなければ問題ない、と云う意味だ。
5分に1回ぐらいの割合で、因縁を付けてるらしい軍人さんか、違う国の軍人さん同士が啀み合ってる光景を目撃する羽目になった。
今も、路面電車の前でアメリカの兵隊さんと中国の兵隊さんが口喧嘩をしている。口喧嘩が成り立ってるのは……中国側に英語を話せるらしい人が結構居るためだ。
「な……何て言ってるか判る?」
「えっと……中国の兵隊さんが言ってる事は何とか……」
アメリカの兵隊さんの言ってる事は……英語なのは判るけど、それ以上に判るのは「訛りが酷くて何言ってるか、さっぱり判んない」事。
一方、中国の兵隊さんの英語の方が逆に聞き取り易い。
まるであれだ……「SNSで鍵アカの人と口喧嘩してる人の書き込みだけ見て、どんな口喧嘩が行なわれてるか推測しないといけない」ような状況だ。
ネット上での好感度は……アメリカ軍1位、ロシア軍が1位に大差を付けられた2位で、中国軍・韓国軍論外、ベトナム軍は好き嫌い以前に、そもそも眼中い人が多い、台湾に関しては「中華民国」とは「中華人民共和国」の略称だと思ってた駄目な大人がウチのお父さん以外にも山程居た事が判明……みたいな感じだ。
ただし、ネット上での人気上位2ヶ国は仲が悪い。ネット上での人気下位4国も……中国とそれ以外の3ヶ国で対立している。
逆に現実世界での人気は……。
「すいません、ちょっと待って下さい」
中国の兵隊さんの1人が路面電車の運転手さんに外から声をかけた後に、中国語で何かを叫び……続いて、中国の兵隊さん達のリーダーがアメリカ側に身振り手振りを交えて英語で「まずは、この電車を通せ」と
そう云う事だ。
通称「進駐軍」を構成してる6ヶ国軍に対する現実世界での好感度は、ネット上と正反対だ。
早い話が「同じトラブルを起すなら、言葉が通じる方がまだマシ。言葉が通じない相手とはトラブルの解決のやりようが無い」。
ネットじゃなくて現実世界では、ほぼ「日本語を話せる兵隊さんが多い順番」で好感度が高い。つまり、上位4ヶ国は中国・韓国・ベトナム・台湾で、下位2ヶ国がアメリカとロシアだ。
現実世界での好感度の正確な順番がどうなってるかは難しいけど……上位4ヶ国と下位2ヶ国の間には、とんでもない大差が有るのだけは確かだ。
例えば「軍用車が通るんで道を開けろ」と一般人に命令する場合も、中国・韓国・台湾・ベトナムは日本語で言ってくれるが、アメリカとロシアは自分の国の言葉で命令してくる。
英語ならまだ何とか判る人も居るが……ロシア語が判る人など、ほとんど居ない。
そして、日本人にとっては何を言ってるか判らない「命令」に従わなかった人は……まぁ、その何だ……。
「よしと言うまで動いたり外に出た奴はゲリラと見做す」とロシア語で言ってたらしい軍用車が住宅地を通った後には火葬場が2日待ちになったそうだ。
大人達がSNSで「おそロシア」なんて親父ギャグを言えてたのは、その「おそロシア」の矛先が自分達に向かない間だけだったんだよね……今更気付いても遅い気がするけど。
あと、「おそロシア」なんて親父ギャグが生まれた原因になった大統領は、二〇二〇年代前半の例の戦争の戦犯として縄が1本だけの変なブランコ遊びをする羽目になったけど、ロシアって国は、吊された大統領の頃から何も変ってない。
一番マシな国と一番酷い国は話さえ通じれば酷さが倍以上違う事は無いだろうけど……困った事に喩えじゃなくて文字通りの意味で、話が通じないのが2ヶ国ほど有る。
ややこしい事に、好感度と、どの国とどの国が仲が良いかは関係ない。
中国&ロシアとそれ以外の4ヶ国は仲が悪い。
ところが、中国&ロシア以外の4ヶ国も一致団結してはない。
韓国の兵隊さんとベトナムの兵隊さんが仲良く一緒にお酒を飲んでる写真は、SNSで良く見掛かるけど……アメリカとベトナムの仲はビミョ〜なようだ。
「この電車……いつ動き出すんだろ?」
「さ……さあ……?」
路面電車の前では、中国とアメリカの兵隊さん達の口喧嘩が殴り合いへと変貌していた。
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