第九話:夕飯だヨ!(家族)全員集合!

 扉をくぐった瞬間の出来事でした。すぐ目の前に人が迫っていたのです。速い、速すぎる!そう思ったのも束の間、とっくに抱き着かれていました。

 

「マルグリットちゃん!すっごい心配したのよ~。倒れたって聞いてから何度か様子見にお部屋に行ったんだけど、いつも寝ているときだったからタイミングが悪かったのね~」


 この声はおかあさま! ていうか、ぐっ、ぐるじい! はっ、はなれでっ!

 

 私はギブアップの意思を示す様にお母さまの腕を二回タップすることでお母さまに理解して頂き解除してもらいました。マジで首にガチ決まりしてました。危なかった。

 

「あら、ごめんなさい。マルグリットちゃんへの愛が大きすぎて、自分を制御できなかったのね~」


 窒息しかけていた私は大きく息を吸い込み、呼吸できることへの感謝、生きていることへの喜びを噛みしめているのです。

 

 さすがにこんな場所で二度目の死を迎えるわけにはいかない。

 

「お母さま、ご心配おかけしました。もう大丈夫です」


 呼吸を整えた私はお母さまに振り返り、改めてお母さまの全体像を確認する。相変わらず、この人は年を取っている感じがしない。

 

 まあ、十三年前に戻っているのだから当然なんだけど。ていうか、十八歳の私そのものなんですけど。

 

「お父さまもお兄さまにもご心配おかけして申し訳ありません。無事に体調が回復いたしました」


「うむ、体調が回復して何よりだ。こっちに来なさい、私が食べさせてあげよう」


 お父さま――サミュエル・グラヴェロット、強面、ひげ面、ガタイよし、娘ラブで元冒険者もやっていたらしい。当時の私はあまり強くなることに興味がなかったため詳しくは聞かなかったけど、今は結構興味あります。


「ちょっ、父上! なりません。それは兄たる僕の役目です」


 お兄さま――クリストフ・グラヴェロット。メガネ、真面目、妹ラブ、頭がいいが運動音痴。母親似。私が学園に入る前のお兄さまは少年体型ではなくちゃんと青年になってました。私とお母さまが特殊なのかもしれない。


 五歳の時は全く気にならなかったけど、十八歳の精神を持っている私からみたらドン引きする会話です。お父さま、お兄さま。

 

「いえ。いい加減、自分で食べられないといけませんからね。令嬢として」


 私はお父さまとお兄さまの発言を突っぱねて、夕飯を一人で食べることにしました。

 

 あー、懐かしい~、やっぱこの味いいわあ。実家の味は最高です。


「「なっ!」」


 そんなあからさまにショックを受けた表情をしないでください。さすがの私も申し訳ないと思っちゃうじゃないですか。


「あらあら、マルグリットちゃん。大人ね~。女の子の方が大人になるの早いものね。五歳にしてこの落ち着き具合はただ者ではないわ~。将来が楽しみね~」


 お母さま、申し訳ありませんが、同一人物が目の前にいるようで正直落ち着かないです!


「まってくれ、アニエス。私はそれ以上に気になっていることがあるんだ。」


「僕も気になっていることがあるんだけど。ねえ、マルグリット」


「はい、なんでしょう?」


「「何時の間にそんなハキハキ喋るようになったんだ?」」


 しまった!ハキハキ令嬢マルグリットを前面に押し出し過ぎましたか。

 

 今の私は中身が十八歳の大人の淑女なんでした。ビクビクおどおどしていたあの頃の私では断じてないのです。

 

 こんな一家団欒な光景を目の当たりするとやっぱり信じられない。

 

 

 

 

 

 

 

 ねえ、お父さま、お母さま、お兄さま、あなたたちは本当に十三年後、私の敵になるのですか?

 

 

 

 

 

 

 

 私は自分でも気づかない内に下唇を噛み、拳を思いっきり握り、掌に爪を立てていた。


「……ット?」


「……リット?」


「マルグリット?」


「ハッ!? すみません、なんでしょう? ちょっと考え事をしてまして」


「大丈夫か? なんか辛そうだったが?」


 お父さまが不安そうにこちらを見てくる。


「病み上がりですからね、でも大丈夫ですよ」


「そうか、あまり無理はするなよ」


「はい、ありがとうございます。お父さま」


 十三年後、前回と同じ状況になったとしても私は間違いなくフィルミーヌ様の側に立つでしょう。

 

 それでも、やっぱり…… 家族とは敵対したくないよ…… 三人にいったい何があったというの? 追い出したくなるほどに私を嫌いになる要因があったとしたらそれは何?

 

 わからない。けど、私は…… フィルミーヌ様も家族もどっちも諦めたくない! 絶対にフィルミーヌ様を救い出し、家族とも和解してみせる!

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 食事を終えた私は自分の部屋のベッドに横たわっていた。

 

「うー、食べ過ぎたー。くるじぃー」


 明日からの事を考えると栄養は多い方がいいからね。どうせすぐ消化するんだし。食べ過ぎたせいか、お腹をさすっていたら心配になったのかナナが部屋までついてきてくれた。


「今までとは比べ物にならないくらい召し上がってましたねぇ。お腹の方は大丈夫ですかぁ?お茶を入れようかと思いましたが、やめておきますかぁ?」


「大丈夫だよ。お茶貰ってもいい?」


「はい、少々お待ちください。お食事中に旦那様とクリストフ様も仰ってましたけど、本当にお嬢様は変わられましたねぇ。」


「そう?」


「高熱から目覚められた時から『あれっ?』と思ってたんですよぉ。いつもであれば私にも一線引いている様に感じられていたのが、それが無くなっているように思えたのですぅ」


 うっ、たしかに昔の私は人見知りというか他人と接することに恐怖を感じていた部分があったのは否定しない。


 変わろうと思ったきっかけは、フィルミーヌ様をオーク(?)からお救いしたあの時から。

 

 人間変わろうと思うきっかけは些細なもの。でも、私にとっては大事な…… 大切なきっかけ。だから私はこの思いを大切にしたい。私の一生の宝物。

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