第六話:・・・おや!? まるぐりっとのようすが・・・!


 どうも、ごきげんよう。状況把握能力ゼロ令嬢マルグリットです。


 フィルミーヌ様の夢を見て起きたと思ったら何故か自分の部屋にいるわたしにビビってます。


 わからない…… 一旦落ち着け、私!

 

 と、とりあえず水を飲もう。喉が渇いた……。

 

 とりあえずベッドから起き上がらないと……、なんか体重くてうまく起き上がれない……。

 

 ベッドから降りようとした私はバランスを崩してベッドから落ちてしまった。

 

「いったあああああああああああああああ」


 私の叫びが聞こえたのか、部屋の外からすごい勢いでこちらに向かってくる足音が聞こえる。

 

 勢いよくドアが開かれる。もう少し丁寧に空けてほしいんだけど、ドア壊れちゃうから。

 

「お嬢さまああああああああああああああああああああああああああ、目が覚められたのですねぇ、よかったああああああ」

 

 うるさっ! 声でかっ! 聞き覚えのあるバカ声の主、私が学園に入る前の私の専属メイドである『ナナ』の声

 

「高熱を出されて丸二日間ずっと寝込まれてたので心配だったのですよぉ。目が覚められてよかったですぅ」


 ナナは半泣き状態で私に飛びついてきた。おい、瀕死の人間に向かってダイブはやめたまえ!

 

 ナナによるダイブによってベッドに押し倒される形になってしまった。

 

 まあ、いいか。身体重いし、しばらくベッドで安静していよう。

 

 それにしても二日? そんなに寝てたんだ? 私…… ん? 違う違う。

 

 それどころじゃない。私は一旦死んだはずなんだ。高熱どころか生きてるのが不思議なくらいの重症だったはず。

 

「ねえ、ナナ。私の事、よく見つけられたわね。どうやってここまで運んできたの?」


 私は率直に疑問をナナに聞いてみる。

 

「どうやって? あの…… お嬢様が倒れられていたのを見つけたので運んできたのですけど……」

 

 え? 何であんな場所で発見できたんだろう…… 人が普段通らないような場所だよ? それに『赤狼の牙』がいたはず。ナナが見つけたときは既に立ち去った後ってこと?

 

「そもそも何であんな場所にいたの?」


 ナナは不思議そうな顔をしてこちらの顔を眺めている。不思議に思ってるのは私だっての!

 

「お嬢様のお姿が見えなかったのでたくさん探しちゃいましたよぉ」


 殿下の言う事が正しいと仮定するのであれば私の追放に関してはとっくにグラヴェロット家に伝わってたはず……。 でもそれを察知したナナが私を探しに来たってこと? 王都から隣国までの道のりを?

 

「そうなのね。助けてくれてありがとう」


「いえいえ、それが私のお仕事ですからぁ」


 ナナは照れつつも嬉しそうにガッツポーズしている。チワワ的可愛さを感じてしまう。

 

「それにしてもぉ、あの…… お嬢…… 様……? 」


 ナナが何か私の方を見て首をかしげている。どうも私に何か疑問を抱いているみたいだ。

 

「どうしたの? ナナ」


「……いえ、やっぱりなんでもありません」


 言い淀むなんてナナらしくないけど、言いたくないなら無理に聞き出そうとは思わないから一旦置いとくとしよう。

 

 それよりナナに確認したいことがあるんだ。

 

「でも勝手に連れて帰ってきてよかったの?あなた、お父様に怒られない?」


「えええええ? 逆ですよぉ、倒れているお嬢様をほったらかしにしようものなら私はクビになっちゃいますよぉ」


 ん? 追放に賛同しておいて? むしろほったらかしにするべきなんじゃないの? それとも表向きは従ってるフリをして実は私を助けてくれた? ということはイザベラとフィルミーヌ様も?


 フィルミーヌ様のあの時の声とイザベラの切り飛ばされた首を思い出して私はベッドの上で吐いてしまった。

 

「お、お嬢様!? すぐに桶と拭くものを持ってきますぅ!」


 私の突然のやらかしに驚いたナナは大きな足音を立てながら部屋から走って出て行った。

 

「情けない……。 守れなかった……。 私だけ……。 生き残ってしまうなんて……。……っ……!」


 私は我慢できずに泣いた。二人が死んでしまったこと、守れなかったこと、自分だけ生き残ってしまった情けなさに、悲しさに、悔しさに、惨めさに、あの時の様々な感情が全て纏めて襲い掛かってくるも、ぶつける先がなかった私はただただ泣くことしかできなかった。

 

「お嬢様……」


 桶と拭くものを持ってきたナナは何も聞かずに掃除をしてくれた。吐瀉物の片付けとシーツを取り替えてくれたナナは神妙な面持ちで私の目を見ながら両手を握り話しかけてくる。

 

「お嬢様が何に悲しんで苦しんでいるのか私にはわかってあげることはできません。世界広しと言えども、ただ一人お嬢様にしか理解できない感情だと思うんです。きっと私が無理に聞いて、話の内容が理解できたとしても当事者ではない私はその感情をわかってあげられないから…… だから私からは話は聞きません。その代わりにハイッ!」


 ナナはそう言うと慈愛の表情で両腕を広げている。


「ナナ?」

 

「そのやり場のない感情を私が受け止めることなら出来ますから! いつでも飛び込んできてください! どうぞ、お嬢様!」


「……っ……ナナァ!」


 その言葉を聞いて私はナナの胸元に飛び込んだ。

 

 私は世界で独りぼっちだと思っていた。追放され、実家に戻ることも許されず、フィルミーヌ様もイザベラも殺されてしまった私にはもう何もないと思っていた。けど、昔と変わらずナナがいてくれた。安心して泣いて、泣いて、散々泣いた後に眠ってしまった。

 

「おやすみなさい、お嬢様」

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