情緒が不安定すぎる前世が男で今は女の話

漆間 鰯太郎【うるめ いわしたろう】

第1話 青天の霹靂女の話


 二度目の人生を歩むことができるなら、あなたはどんな風に生きる?

 条件は前回の人生の記憶を持ったまま。

 それを現実に体験したわたしが言えるのは、ただただ苦痛って事。


 唯一得した事は学業に関して苦労はしなかったくらいかな。

 前回の人生でわたしは、家が世間体をとにかく気にする中産階級で、物心つく頃には既に東大か京大に入ることを洗脳してくる様な家庭だったので、実際に東大に入った後に実家のヤばさを漸く理解したんだけど、それが二度目の人生ではアドバンテージになったのだから、前回の両親には今更ながらに感謝している。もちろん皮肉だけれど。


 でも同時に学業そのものがストレスの根源でもあったけどね。

 そりゃそうでしょ?

 前回の記憶があるって言うけれど、正確にはその記憶や意識と言うのは途切れなく連続しているんだよ。

 だから42年の人生を積み重ねたまま、ガワがリセットされたのがわたし。

 

 そして想像してほしい。

 大人の意識を持った状態で、周囲がうんこでゲラゲラ笑う子供たちに囲まれている事を。

 社会に出て企業の中にいれば、年齢が上も下も当然いるし、そこで軋轢なく付き合える協調性を求められる。

 でもそれは、相手も自分も大人としての分別とか常識を持った上での事でしょ?

 方や大人。方や子供。この場合、わたしが一方的に周囲に合わせるしかないのだ。

 それは学校にいる間、常にストレスしかない。


 そして最大のストレスは……前回の性別が男で、現在の肉体は女だけど、どう足掻いても性自認は男性よりってこと。

 多少でも女の部分を自覚しているのは、第二次性徴を迎えて月経が来るようになったり、そもそも男性より自力で劣る身体能力と、男だった時の意識ギャップが大きすぎたから。

 そういう如何ともしがたい肉体の性別から、女である事を強いられるシーンが多すぎて、否が応でも女として振舞わざるを得なかったのだ。


 悲しいことに自分の今の容姿と言うのは、かつて自分が男だった時の感覚から言っても相当に恵まれた容姿を持っている。

 それこそ男性の目を簡単にひいてしまう程度には。

 嬉しいのは胸がBカップと控えめだったこと。これで巨乳だったらそのストレスも上乗せされて自殺してたかも。

 性自認が男よりで胸のケアは苦痛だよ。

 ブラだってしたくはないが、しなければ透けて他人に見られるし、乳首が擦れて痛くなるだろうしさ。


 だからわたしは早くに自分の人生設計を決めていた。

 それは出来るだけポジティブに女としての人生を楽しみつつ、結婚はしないでシングルの人生を楽しむって事。

 前回? 前世? では、遺伝的要因なのか、お酒も飲んでないのに肝臓がやられて死んだ。

 だから若くて健康な肉体になったのだし、今度は人生をまっとうして死にたいよね。


 こう思えるようになったのは両親のお陰かな。長野の高原地帯で農家をしている実家だけど、珍しい……と言っていいのか、わたしの突飛さに両親は寛容だったんだ。

 まあお母さんが外国人って言うのも関係あるんだろうけれど。


 そんなわたしは中学に入ってすぐ、わたしはいい意味でも悪い意味でも男女共に注目された。

 この時点でわたしの身長が167ほどあり、一人だけ妙に大きかったんだ。

 最終的には高校一年のあたりで172センチに達し、そこで止まったけれど。

 中1の頃ってまだ男子も小さい子が多かったから、妙に目立つんだよね。


 まあ男の子達はいいんだよ、分かりやすいから。

 顔が綺麗目だからポーっと初恋の相手にされたりする。

 後は好意が裏返ってデカ女! とか言ってきたり。

 それか体格で負けてる上に国立大の中の上澄みレベルの学力が既にあるから、わかりやすい嫉妬をされたり。

 でも元々は男だったし、彼らの行動の根源は理解しているから御しやすいよね。

 あははと快活に笑って懐にこっちから入ってやれば大人しくなるから。

 ごめんね、性癖ぶち壊された人も結構いたかもね。


 でも女子が面倒臭いんだ。

 まず容姿がとびぬけてるから「アリスさん凄いっ! モデルさんみたいっ!」って集まってくる。派手な見た目なのはお母さんがイタリア人だからで、文句はそっちにお願いします。

 そうやってまずはチヤホヤしてくるんだけど、学校生活が始まればそれぞれのポジションが確立していくじゃない?

 すると理不尽に攻撃してくるようになる。


 例えば自分が好きな男子がわたしに懸想しているとかそう言うきっかけで。

 後はわたしは周囲との精神的なギャップがあるから基本的にクラスの中では孤立を好んでいる。話しかけられれば卒なく話すけれど、いわゆるグループになって時間がある度にいちいち群れるってのはしない。

 こう言うのもお高くとまっているという理由で攻撃される。


 まあそもそも思春期に容姿とかで勝てないって思ってしまった相手にマウントは取り辛いから攻撃するってなるんだろうけれど。

 女として生きてみて切実に理解したけれど、もしかすると女性って男性よりもマウンティングしたがる生き物かもしれない。

 学術的な根拠は知らないけれどね。わたしにフェミニズム思想は無いから。

 

 それでも新たな自分として生きてきて28年。

 わたしは色々あったけれど、それなりに人生を楽しんでいる。

 そんなわたしの日常を、備忘録として語ってくのがこの小さな物語の趣旨なんだ。

 良かったら付き合ってくれるとうれしい。


※ミスで1話が非公開になっていたため再度投稿しました。

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