第17話
「聞いただろう?国防大臣も魔人のなりすましだぞ」
シーンとしている通りでデイブが騎士に向かって言う。その声に我に帰った護衛の騎士達。護衛の中の責任者風の大柄な騎士が声を出すとすぐに4、5名の騎士達が王城に向かって走っていった。
「まさか、ルール宰相が魔人のなりすましだったとは」
「本当の宰相はとうに殺されてる。すぐに国防大臣を押さえた方がいい」
デイブが言った。
「とにかくこれは一大事だ。私もこれからすぐに王城に戻る。それでもし国防大臣が魔人になったら悪いが討伐をお願いできるか?俺達じゃ魔人には勝てない」
「いいだろう。じゃあ一緒に城に行こうか」
是非に頼むという騎士の言葉を聞いてデイブとダンは他の騎士と一緒に王城に向かっていった。
ダンとデイブの姿が通りの向こうに去っていってようやくプリンスの身体の硬直が解けた。隣にいたジャンも同じ様だ。他のメンバーも硬直は解けたが皆放心状態になっている。
「まずは魔人の死体を片付けよう。ギルドの解体場に持ち込むんだ」
正気に戻ったプリンスのその言葉でギルドの前にいた冒険者達が魔人の身体と切られた両手を持ってギルドに入っていこうとするとその扉が開いて中からギルマスのチャールストンが出てきた。
「見てたか?ギルマス?」
「ああ。全部見ていた」
プリンスの言葉に答えるチャールストン。とりあえず中に入ろうとギルマスとホワイトタイガー、そして他の冒険者達もギルドの中に入ると併設してある酒場に向かって思い思いに腰掛ける。
「宰相が魔人だったってことで一連の国の不可解な動きに説明がついた。デイブがあの場でも言っていたが宰相と国防大臣が魔人なら好きにやり放題だ」
ギルマスが言うと頷くメンバー。ギルマスは頷くとところでなとホワイトタイガーのメンバーを見て
「宰相が魔人になったときお前ら勝てると思ったか?」
「正直身体が動かなかった」
首を左右に振りながらプリンスが言うとジョンをはじめ他のメンバー全員が俺も私もと言う。
「普通はそうだろう。実は俺だってそうだったからな。身体がすくんで動けなかった」
そう言ってから
「あの2人以外で身体がすくまなかった奴はいないだろう」
ギルマスの言葉を聞いたプリンスが言った。
「あの2人は別格中の別格だ。遠くから馬車にいるのが人間じゃなく魔人と気がついていて2人とも本気モードで準備をしていたよ。俺達は全く気がつかなかったが奴らは気づいていた。気配感知で中にいるのが人間じゃないってな。それであの戦闘だ。ダン1人で魔人をまるで赤子の手をひねる様に倒している。右手、左手、そして最後に首を刎ねた。その剣の動きは結局俺には全く見えなかった」
「俺にも見えていなかったよ」
プリンスに続いていったスチュアートの言葉を聞いてびっくりする酒場にいる冒険者達。ギルマスはそうなんだよ見えなかったんだよと言ってから、
「まず2人の迫力だ。あれ程の戦闘オーラを出す人間を俺は今まで見たことがない。あの2人は想像を絶する強敵を倒しまくってきている。そうでないとあの場であの迫力は出ない」
そこで言葉を切ったギルマス。
「そしてダンの戦闘能力だ。魔人相手にお前は弱いと言い切れる奴の実力は本物だ。俺達じゃ束になっても太刀打ちできない魔人をダン1人でなぶり殺しだ。剣が動いた?と思ったら魔人の手が肩から切られていた。ダンは桁違い、いやそれ以上の腕だぞ」
ギルマスの言葉が終わると酒場がシーンとなる。
「あいつら魔人領に乗り込んで行こうかなんて言ってたな。あの実力がありゃ法螺でもなんでもないぞ。あいつらなら本当にやっちまうぞ」
しばらくしてから呟いたジャンの言葉に皆頷いていた。
王城に向かいながら一緒に歩いている大柄な騎士がヤングという名前で王都守備隊の隊長だということを聞いたダンとデイブ。
ヤングは隣を歩いている二人の戦闘能力に内心で感嘆していた。特に黒ローブを着ているダンという男。自分よりも体格では劣っているがその迫力は今まで見たことがない程だ。こいつ、いやこいつら二人は修羅場を何度もくぐり抜けてきたのだろう。外見からは想像もつかない戦闘能力だ。立ちすくんで動けなかった自分と違って二人とも抜刀して魔人と対峙しても全く怯んでいなかった。
王城に入ったところで先行して走って行っていた騎士数名がヤング隊長を待っていた。
「国防大臣は城の中で執務中とのことです」
「わかった。直接向かおう」
そう言ってからダンとデイブについて来てくれと言う。王城に入るとそのまま城内の廊下を歩いて階段を登っていき、目的のフロアに着いた一行。
「廊下の右側こちらから3つ目の部屋だな」
デイブが言うとびっくりするヤング。
「わかるのか」
「ああ。そこからさっきの魔人と同じ気配がしてきている」
ヤングがダンを見ると彼も頷いていた。そしてヤングと視線を合わせながら
「俺達でケリをつける。幸い部屋には他に誰もいない様だしな」
ヤングが先頭に立ちその後にデイブとダンが続いた。他の騎士は廊下で待機している中ヤングがドアをノックし
「ギム大臣、急用です」
「急用?私は今忙しいんだが」
中から声が聞こえてきた。ヤングはもう一度
「大至急お話したい案件がこざいます」
「仕方ないな。入ってこい」
その声を聞いてヤングが扉を開けて後からダンとデイブが続けて部屋に入っていった。2人とも抜刀して両手に片手剣を持っている。部屋に入るとデイブが窓際に移動しダンは部屋の扉を背後にして立った。
「一体何だというのかね?しかも見たこともない者も一緒に。王城で剣を抜くと死刑になると知らないのか?」
黙って聞いていたデイブが口を開いた。
「宰相に化けていた魔人は俺達が殺したよ。あんたも同じ匂いがするな。臭い魔人の匂いが」
いつの間にかヤングは扉の前に下がり、代わりにダンとデイブが国防大臣に化けている魔人の前に立っていた。
「信じなくてもいい。俺たちは魔人の匂いがわかる。今まで散々倒してきたからな。宰相に化けていた魔人も最初は強気だったが右手を切られてから大人しくなったよ。最後は痛みを感じない様に首を刎ねて殺しておいた」
淡々と話すダン。目の前の国防大臣に化けていた魔人は2人が今まで相手をしてきた人間にはない気配を感じ取っていた。逃げようにも窓側に1人、そしてドアの前に1人。どちらも今まで会ったことがないオーラを発している。それでも魔人はまだ自分の方が強いと勘違いをしていた。
「宰相に化けていたのは俺たちの仲間でも最弱のやつだ。そいつを倒したからって俺を倒せると思ったら大間違いだぜ」
目の前にいる2人にはいくらシラを切っても無駄だと察した魔人はその場で国防大臣から魔人の姿になる。扉の前に立っていたヤングは再び驚愕するがダンとデイブは全く表情を変えない。
「いや、お前もあいつと同じだよ。雑魚に変わりはない」
ダンが言うといきなり魔人がダンに飛びかかってきたが、体の動きでそれを予想していたダン。すれ違い様に魔人の腹を切り付けた。
「わざと腹を切ってる。殺すのなら首を刎ねたら1発だったけどな」
大声を上げて床の上でのたうち回る魔人に近づくダンとデイブ。
「お前らの他にまだいるのか?化けてる魔人が?」
「俺が言うとでも思うのか?」
「もちろん」
そう言うとデイブが手を突き出し切り裂かれている腹に火の精霊魔法をぶつける。一段と大きな声で暴れる魔人。
扉の前にいたヤングはまたびっくりしていた。さっきは戦闘していなかったもう1人の男が無詠唱で魔法を発したからだ。国の最高クラスの魔法士以上だと思って見ていると、
「簡単には殺さない。たっぷりと苦しませてやるよ。お前達もそうやって罪もない人間の村を襲っては住民をなぶり殺しにしてきたんだろう?」
デイブが言うとダンが続ける。
「宰相と国防大臣。化けてるのはこの2人だけか?」
「そ、そうだ」
魔人は目の前の人間の想像以上の戦闘力を見て戦意を完全に喪失していた。強い、こいつら強すぎる。
「国王陛下は殺してないんだろうな」
「こ、殺してない。幽閉しているだけだ」
聞かれると答えてしまう。いや答えざるを得ない様な恐怖感が全身を覆っている。
「それで宰相も国防大臣もとっくに殺したというわけか」
「そうだ。3年前に俺達2人が殺して乗り替わった」
デイブの問いに答える魔人。
「そうか」
デイブがそう言った瞬間、ダンの右手が動いたかと思うと魔人の胴体と首とか綺麗に2つに分かれた。
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