第41話奸計
ハザドの湖がよく見える、崩壊を仕掛けた神話時代の古城。
その一室に塞ぎ込むように、アンネ ファタ モルガナは座り込んでいる。
罪悪感。無力感。焦燥感。孤独感。
今まで抑え込んできた感情。
今まで見て見ぬ振りをし続けてきた現実をアンネは受け止めきれず、ただただ糸の切れた人形のように、ただ月の光を浴びながら静かに星を眺めている。
「こんなお城で、ずっと、ユウ君と」
うわ言のように、数日前に最愛の弟と語り合った「夢」を呟き、目を逸らすようにアンネはその夢に浸る。
もはや、そうすることでしかアンネの精神は保つことができないほどに衰弱をしていた。
それも当然か。
彼女の中には……。
「おや、こんなところにいましたか」
そんなアンネの眠る古城に、聞き覚えのある。
そして二度と聴きたくなかった男の声が響き、アンネは現実に戻りその男を睨みつける。
「いい度胸ね。私の前に姿を見せられるなんて、貴方のせいでユウ君は──」
殺意を隠すことなく、アンネは杖を構えるが、男は「無駄ですよ」と呟くと、近くにあった柱に触れる。
すると、腕は柱を煙のようにすり抜けた。
「幻影……臆病者。そう言えば、たかが羊飼い二人のために、騎士をぞろぞろ連れてきてたものね」
怒りを露わにしながらアンネは相手を煽るが、そんな挑発には乗らないと言わんばかりに白衣の男は口を緩ませる。
「そりゃぁね。これでも研究者ですから。いやはやしかし、あの羊飼いのサルがここまで立派になるとはね、驚きで──」
言葉を言い終わるより早く、召喚陣より剣が放たれ、幻影の口を貫き、言葉を中断させる。
「貴方とおしゃべりする気力も、心の余裕もわたしには今ないのよ。もう私たちに関わらないで。貴方がどれだけ策を練っても、私には敵わない。だからユウ君はもう諦めなさい!」
肩で息をしながらアンネは相手に警告をするが、男は肩をすくめて「連れないですね」と呟く。
「そうは言いますが、そんなに大切なのに目を離してしまっていいんですかね?」
「どう言うことかしら?」
不敵な笑みに、アンネはつい白衣の男の言葉を聞き返す。
そう、聞き返してしまった。
「今すぐ弟さんの元に戻らないと。彼、魔王軍幹部に殺されちゃいますよ?」
悪辣に歪む口元。
相手を意のままに操るその言葉はまさに悪魔のものであり。
明らかな罠だと分かっていても、アンネはそれに飛び込む以外の選択肢を取ることができなかった。
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