第34話 レッドブルの秘策
「こ、こいつ……自分の犯行を誤魔化すために追い討ちをかけやがった……」
「鬼畜じゃ!? 鬼畜の所業じゃ!?」
「ちちち、違うもん!? 魔王軍幹部と激戦を繰り広げているだけだもん!?」
「思いっきり一方的じゃったよな今!?」
「そ、そんなこと………そんなことないよね、ユウ……」
「……」
「サイエンさん‼︎? 激闘だったよね‼︎? ね?」
「ひぃっ……ごめんなさい、ごめんなさい‼︎?」
一瞬僕に同意を求めようとする姉ちゃんだったが、僕の冷ややかな瞳を見て諦めたのだろう。急遽第三者に同意を求める姉ちゃんだったが。怯えたようにサイエンさんは顔を青くして後ずさる。
「やめてやれアンネ。 その子舌噛み切って自殺しそうなぐらい怖がってるぞ」
「そこまで‼︎?」
「そうだよ姉ちゃん、せめて一応人間であると証明してからじゃないと」
「もはや化け物扱い‼︎? 酷いよユウくんお姉ちゃんだってか弱い女の子なんだよ‼︎?」
「魔王軍幹部を一方的に黒焦げにする輩はか弱い女の子とは呼ばん、ネメシス(宿敵)かプレデター(捕食者)と呼ぶのじゃ」
「せめて人間扱いしてよマオちゃん‼︎?」
泣きそうになりながら抗議をする姉ちゃんだったが。
そうこうしている間に壁に叩きつけられたレッドブルがよろよろと立ち上がった。
「ごほっ……ごほっ、てめぇら、どうやら本気でこの俺様を怒らせたみたいだな」
全身の火傷にだらんと垂れ下がった左腕。
まさに半死半生と言った様子のレッドブルであったが。
その瞳はまだ戦意を失ってはいないと言うことを雄弁に語っている。
「まだ立つのか、流石は魔王軍幹部と言ったところみたいだね」
「当然だ……言っているだろう? 俺様は魔王軍幹部、ぜぇ、はぁ、この程度の魔法でやられたりなどはしない。散々コケにしやがって、地獄を見せてやる……」
「あんまり強がり言うなよお前……本当にここのプレデターに殺されちまうぞ?」
もはや哀れみに近い感情を持ってフレンはそう言うが。
レッドブルは先ほどとは異なり不適な笑みを浮かべた。
「強がりじゃねえさ……とっておきを見せてやる」
「……とっておき?」
「?」
意味不明な情報を語りながら、男は懐から琥珀色の宝石を取り出す。
「……っ‼︎ いけない‼︎? 皆さん気をつけて‼」
「え?」
しかし、その宝石を見た瞬間にサイエンさんが警告をするように声を上げる。
一見ただの宝石ににしか見えないその石だが、サイエンさんは怯えるように僕の後ろに隠れてカタカタと震えている。
尋常ではない怯え方だ。
「サイエン……あれは一体何?」
できるだけ優しい声で落ち着かせるように僕はサイエンに問う。
「あれが我々の研究機関からあの男が盗み出した研究サンプルです」
「あの石が?」
「石ではありません……あれは三年前、ブレイブハザード爆心地から発見された魔力の結晶体。一般に魔力結晶と呼ばれるもの」
「ま、魔力結晶だと‼︎?」
サイエンの言葉に、フレンが驚愕をしたように声を上げる。
「フレン、知ってるの?」
「あぁ、魔法を使う魔物や魔法使いの体内に多かれ少なかれできる高純度の魔力の塊……例えるなら尿道結石みてえなもんだ」
「なんでそれにした? なんであえて一番酷い例えにした金髪貴様。魔法使いが尿道結石に悩まされてるみたいになるじゃろそれ。魔法使いになんか怨みでもあるのか貴様」
「いや、そんなつもりは……と、とにかく、砕くと魔力が溢れ出す貴重な石で、洞窟やダンジョンで魔力が尽きた時とかに冒険者が使ったりするんだが……最強の魔法生物であるエンシェントドラゴンから取れるもんだって小石程度の大きさなはずだってのに、あのデカさは正直異常だ……人の頭ひとつ分はあるんじゃねえか?」
「それだけではありません……あの魔力結晶は我々魔導研究所の人間が二年の歳月をかけても解除できない強力な封印術によって守られている。 解析の結果、我々はあれが、ハザドの街に保管されていた先代魔王ウロボロスのものであると……結論付けました」
「「「‼︎‼︎」」」
サイエンの言葉に僕たちは息を飲む。
当然だ、隣の国が魔王の力を隠し持っていたのもそうだが何よりも、その力が現魔王軍の手に渡っていると言うのだから。
「ふははははは‼︎ その女の言う通りだ、先代魔王の力は今俺様の手の中にある‼︎ どうだ?自分たちの愚かさが身にしみただろう‼︎」
「なんてことなの、まさか魔王が……」
姉ちゃんはその言葉に驚くような言葉にレッドブルは勝ち誇ったように高笑いをする。
やはり流石の姉ちゃんも魔王軍が先代魔王の力を手に入れていたことにはやはり衝撃が……。
「……魔王があんな大きな尿道結石に悩まされていたなんて」
違った、魔王の尿道結石の心配してた。
「おいこら金髪……貴様のせいで魔王は尿道結石に悩まされてるみたいになってしまったんじゃが? じゃが?」
「待て待て待て‼︎? 悪かった、今回は俺が全面的に悪かったから落ち着いてお願い‼︎」
ノータイムで胸ぐらを掴み拳に炎を纏わせるマオに、フレンは泣きそうな顔で謝罪をすると、マオはやれやれとため息をついて視線をレッドブルに戻す。
「まぁよい……それよりも、皆のもの案ずるな。あれがわら……魔王の力であるならば、かけられておる封印の力は勇者の封印……魔王軍幹部一人がどうこうできる代物ではないはずじゃ……牛が思いつきそうな雑なハッタリよ」
呆れたようにそう言い放つマオ。
しかしその言葉にレッドブルは不適に笑うと。
「ハッタリねぇ。確かに勇者の封印は強力だ……だがここでお前たちにいい事を教えてやろう」
「いい事?」
「俺たち魔王軍は幹部になる際、魔王様より一人一人特別なスキルを与えられる。それは
どれだけ炎に炙られても火傷ひとつしない特別な体だったり、時間を止めたりと様々だが、どれもこれも世界の理や神の作ったルールにすらも優先する……世界を書き換える強力な力……それこそ、勇者の力さえも超越するほどだ。さてここで問題です、魔王軍幹部であるこの俺様が与えられたスキルは……一体どんな能力でしょーか?」
不適な笑みを浮かべながら手に持った魔力結晶を見せびらかすように掲げるレッドブル。
「……っまさか‼︎‼︎」
その言葉に姉ちゃんは何かを悟ったのか、慌てた様子で杖を構えるが……。
「遅え‼︎ とくと見やがれ、これこそが俺のスキル【アンロック】封印されたもの、施錠された扉、身を守る結界‼︎その悉くが俺の前では無意味に砕け散る‼︎ これこそが魔王軍において【侵略】を担うこの俺様の力だあ‼︎」
――――それよりも早く、レッドブルは魔力結晶を握り潰す。
「うっ‼︎?」
ガラスの砕けるような音とともに襲いかかる重度の目眩と吐き気。
それはマオの魔力放出の時にも感じた魔力酔いの症状であり、魔王の力の封印が解かれたことを物語る。
「うっ……お、おいおいおいやべーぞ‼︎? あいつ、体の傷が治ってやがる‼︎」
「なんだって‼︎?」
フレンの言葉に慌ててレッドブルを見ると、傷口が光り輝き治癒を始めるレッドブルの姿があった。
「やべーんじゃねーかこれ‼︎? キズが治って魔王の力まで手に入れるなんて反則だろ‼︎?」
「はっはははは、それだけじゃぁねえ」
慌てふためくフレンに、レッドブルは嘲笑うかのように指をパチンと鳴らすと、足元に黒色の巨大な魔法陣が描き出される。
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