第32話 急襲

「この施設をさらに奥に進んでいくと、さらに地下に下りる通路があって、そこがボスって呼ばれてる人の部屋なんだって。 基本的に鍵がないと開かないけど、通気口を使えばそこから侵入できるみたい‼︎ ほら、建物の地図まで完成したよ、お姉ちゃんすごいでしょ‼︎」


男性二人を個室に引っ張り込んだのち、しばらくして戻ってきた姉ちゃんはホクホク顔でそう僕に情報をくれ、さらにはその手には姉ちゃんの手書きで作られた建物の詳細な地図まで握られていた。


「すごいや、五分と経ってないのにここまで正確な地図が作れるなんて……一体どうやったの姉ちゃん?」


「脊椎の神経ってね……」


「ごめんやっぱり言わないで」


とりあえず彼らが酷い目に遭わされたということは間違いないことだけはわかった。


「とりあえず地図ができたんなら、とっととボスの面を拝みに行こうぜ? 作業してた男たちのいうことが本当なら時間も心配だしよ。アンネの魔法がありゃ、王国騎士団の精鋭部隊が相手でも余裕で蹴散らせるんだ。一直線にボス部屋襲撃してやりゃ、ここのボスは尻尾巻いて逃げる時間すらなくジ・エンド……めでたしめでたしって奴だ」


「おぉ、良いね良いね‼︎ お姉ちゃんそういうシンプルな作戦大得意だよ‼︎」


地図に書かれた通路を指でなぞりながら、フレンは強襲を提案すると、姉ちゃんは乗り気のようで、張り切るように杖を振り回す。


確かにフレンの言う通り、目標の安全のために最短で救出に向かうのは正しい選択に思える。

だが、地図があるとはいえこの地下の階層はそれなりに広い。

……最短で向かったとしても騒ぎを聞きつけたボスがサイエンを連れ去り脱出をしてしまう危険性は十分にあるだろう。

おまけに、仮に突入が間に合ったとしても、ここのボスがサイエンを人質にとったとしたらそれはそれで面倒だ。


「待ってフレン……正面から突破するっていうのもいいけれど、サイエンを人質に取られたらそれはそれで面倒だ……ちょっと時間はかかるけど通気口を通って頭上からの不意打ちで仕留めてさっさと救出しちゃおう。勇者っぽいかは別だけど」


「……その間にサイエンが殺されたら?」


「そう簡単には殺さないだろ? すぐに殺すつもりなら捕まった時点で殺されてるはずだし、きっとここのボスも聞き出すことがあるんだろう。それに、騒ぎを起こして相手を刺激したらそれこそ邪魔なサイエンは殺されかねないだろ?」


「なるほど……それもそうか、けどこんな通気口からの不意打ちを提案するとは、本当お前勇者らしくねえのな」


僕の言葉にフレンは呆れたようにそう呟くが。


「そう言うでない金髪、背に腹は変えられまい……人命優先じゃ」


「だね……あとは姉ちゃんがそれで良いかなんだけど」

暗殺なんてロマンに欠けるわ……なんて言いかねないか不安を抱きながら、僕は姉ちゃんに恐る恐るそう問いかける。

さっきまではつよつよ賢者に隠密なんて必要ないなんて言っていたが……。


「闇に紛れて敵を一撃必殺……はっ‼︎ ユウくんすごい、これ、これかっこいい‼︎ すごいロマンの香りがするよ‼︎?」


……単純な思考回路でよかった。



姉ちゃんの作成された地図を頼りに通気口を通る事数分。

全身は埃まみれになりながらも、教えてもらった通りボスの部屋という場所の屋根裏に到着をする。


「ここが、ボスの部屋」


中を覗くと、赤い壁に赤い絨毯の敷かれた他とは違った装飾の部屋が見渡せる。


建築様式とかに詳しくはない僕だが、趣味の悪い部屋だというのはわかった。


「おい……見てみろよあれ、ツノ女だ……それとあれは、魔物か?」


ふとフレンが足元を指差すと、ちょうど真下に先日の角の女性と……体は人間で顔だけが牛の姿をした筋骨隆々の男が何かを話している。


「魔物? なんで魔物がこんなところで麻薬なんて売り捌いてるのかなユウくん?」


「……わからないけど、とりあえず、様子を見てみようか。姉ちゃん、合図をしたら魔物の牽制と目標の救出をお願い」


「了解まかせて‼︎ お姉ちゃんにかかれば杖の一振りで万事解決なんだから‼︎」


僕の提案に、残りの三人も同意をし、タイミングを見計らう。

息を殺して様子を伺っていると、どうやら現在尋問の真っ最中であるようで、魔物と手足を拘束されたサイエンの会話の内容が聞こえてくる。


「運がないなお前も……どうだ、麻薬の禁断症状で呼吸するのすら辛いだろう。そろそろ、次のオクスリが欲しくなってきたところじゃないか?」


「はぁ……はぁ……はぁ……顔と同じで随分と醜い趣味をお持ちですね……はぁ」


「くっくっく……そう言うなサイエン。これも全てクソッタレな神様って奴が定めた運命さ」


「はぁ、はぁ……黙りなさい」


「強がんなよぉサイエン……散々コケにしてくれた仕返しだ。このままクスリで頭焼き切って、家畜と一緒に飼ってやるよ。ふへへっ、楽しみだなぁ。世界一の頭脳と言われた研究者が、アホヅラ晒して豚小屋で飼われてる姿を見るのはよ……お前にとっちゃ、殺されるより辛えだろ」


「っ‼︎? はぁ……はぁ……この、ゲスが」


「そう睨むんじゃねえよ、恨むなら自分の運のなさを恨め。お前が逃げる途中、偶然麻薬の木箱が落ちてこなきゃ……そもそも、お前の国の王様がお前の忠告を聞いてさえいれば……お前はこんなところで惨めにくたばることはなかったのによぉ。俺は何もしちゃいねえ……ただお前は、不幸って理由だけでここで死ぬんだ。 可哀想になぁ……お前は神様ってやつに相当嫌われているらしい」


「…………ッうぅうぅ、ぐす、ひっく」


「ははははは、いい顔で泣きやがる……くくく、可哀想になぁ。俺たちの襲撃をいち早く掴んでたって言うのに誰にも信じてもらえず、天からも見放され、挙げ句の果てにこうして惨めに全部をうしなうんだからなぁ?」


不適に笑う男は、注射器のような物を取り出すと、恐怖する少女の首筋に近づける。


「やめ、やめて‼︎? お願い、お願いします……やめてください‼︎」


懇願するように暴れ逃れようとするサイエンだが、両手両足を縛られた状態での抵抗など無意味とばかりに押さえつけられてしまう。


「……おいユウ‼︎? まずいぞ、あんな劇薬、血管に直接打ち込まれたりなんかしたら本当に死んじまうぞ‼︎?」


「わかってるよ……姉ちゃん‼︎」


慌てるフレンに僕は頷き、姉ちゃんに合図を送る。


と、姉ちゃんは待ってましたと言わんばかりに魔力を練り上げる。


「お姉ちゃんにまかせてねユウくん‼︎ 身動きの取れない人間をいたぶる様な外道の行為‼︎ お天道さんが許しても、このお姉ちゃんは絶対に許さないんだから‼︎」


「……あれ? 姉ちゃん似た様なことをさっき……」


「いくよユウくん‼︎ 『エ、エクステッドライトニングボルトオぉ‼︎』」


「無視か」

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