第31話合掌

枝分かれをしていく通気口をとおり僕たちは建物内へと潜入すると、煩雑に物が散乱する倉庫のような場所へと到着をした。


大量の木箱に白いシーツをかぶせたその部屋。シーツの色が変色しているところを見るに、建物内でも偶然人の出入りが少ない部屋に到着が出来たようだ。


「……ふむ、ミコトの情報はどうやらあたりみてーだな」


シーツを剥がすと木箱にはモルキネと書かれており、蓋の開いている木箱の中身を確認してみると、中から見覚えのある小瓶が大量に保管されていた。


「……麻薬が、こんなにたくさんウーノの街で出回ってるなんて」


一年もこの街にいるというのに気づかなかったことに僕は唇を噛む。


「気づかねえのも無理はねえよユウ……。俺ですら知らなかったんだ、よっぽどうまくやってたんだろうよ」


慰めるようにいうフレン……その表情は珍しく険しい。


「さて、侵入したまでは良いが、後は角女をどうやって探すかじゃな」


「そうだな、顧客リストとか関係者リストとかが見つかれば、後はそっから行方とかも割り出せるとは思うが」


「……だけど、闇雲に探し回るのはリスクが高いね、四人も連れてこんな密室での隠密活動なんて限界があるし」


「ふぅむ……せめて地図ぐらい見つかると良いのじゃが」


さてどうするか……そう考えながら僕たちは頭を突き合わせていると。

ピクリとフレンが何かを感じたように顔をあげる。


「ん……っ‼︎? おい、お前らすぐに隠れろ‼︎ 誰か向かってくる‼︎」


「‼︎‼︎」


フレンの言葉と同時に部屋の外から話し声と足音が聞こえ、僕たちは慌てて木箱の影に身を潜めると、二人の若い男が部屋へと入ってきた。


「うっわ、ホコリだらけじゃねーか。掃除当番の奴らサボりやがったな。っざけやがって」


「文句なら掃除当番じゃなくて昨日捕まったあの女に言うんだな、普通はここの備蓄は使わねー予定だったんだ……だけどボスがあの女にクスリを打ちまくったせいで在庫が足りなくなっちまったんだからよ」


見るからにガラの悪そうな男二人は部屋へ入ると、文句を漏らしながらモルキネの入った木箱を外に運び出し始める。。

サボりも兼ねているらしく……完全に気が抜けている二人はこちらには気付く様子もなく、だらだらと木箱を廊下の荷台に乗せながら、会話に花を咲かせている。



「っはー……人使い荒いんだよなぁまじでうちらのボスは。自分で在庫切らせておいて、俺たちに補充させるんだからな」


「まぁ仕方ねえって……計画の尽くが失敗に終わった上に、まんまとあのツノ野郎に宝玉を取り返されちまったんだ……そろそろ自分の首が危うくなっててあせってんのさ」


「まぁそれも今日までだな……ついさっきツノ野郎も捕まったことだし、腹いせも済めばある程度怒りも収まるだろう」


「可哀想になぁ、国際指名手配になってまで国の研究結果取り戻しに来たってのに……逃げる途中で大量の麻薬を浴びちまったばっかりに、禁断症状でぶっ倒れてるところを捕まるなんて……ボスのことだ、相当いたぶるだろうなぁ、可哀想に」


「同情すんなよ……あのまま逃げられちまってたら俺たちのどっちかが腹いせにボスに処刑されてたかもしれないんだぜ?」


「ははは……確かにな。金にもなるし、こうして命も救ってくれたモルキネ様様だな」


「ちげえねえ」


軽口を叩きながら木箱を運び出す男たちに、僕は小声で三人に声をかける。


「聞いたみんな?……いま角の人が捕まったって」


「……あぁ、それに研究サンプルは一度取り返されたと言っておったのぉ」


「ははぁ、なるほど読めたぞ?」


「読めた?」


ふと、フレンはなにか合点が言ったと言った表情で口元を緩めると、話をまとめ始める。


「つまりだ、研究所の研究サンプルを盗み出した犯人ってのは本当はこいつらで、あのツノ女はそれを知ってあの日、一人で研究サンプルを奪い返すためにこのアジトに乗り込んだ……見事にサンプルを取り返したのはいいものの、奴らに見つかった上に逃げる途中でついてないことに大量の麻薬を浴びちまったって訳だ」


「ふむ、ではあの時は追手から逃げている真っ最中だったと言うわけか。……そう考えればなんの警報もなく街中に魔物が現れたのも納得がいくな、街の外からではなく内側からあらわれたのであれば、外壁も見張りもないものなぁ。 まったく人の子の分際で、街中で魔物を飼うなど一体どう言う神経をしておるのやら……」


「やれやれ、姉ちゃんの言うとおり。本当に悪い奴らの溜まり場だったね」


「ふふーん。いつも言ってるでしょユウくん、お姉ちゃんの言うことに、間違いはないんだって」


「たまにはだからね、たまには」


わかりやすく調子に乗る姉ちゃんに僕は釘を刺しておく。

調子に乗るとまたよけいなことをしでかさないからな、姉ちゃんは。


「さて、となると研究サンプルとツノ女の双方は今ここのボスとやらが保有しているというわけじゃが」


「正直ツノ女が捕まる前に接触できりゃ良かったが……まぁそうそう何でもうまくいくもんじゃねえしな。幸い、今の話だとまだ殺されてはねえみてえだし」


「じゃが急がねば危ういな……何とかしてそのボスとやらの部屋に忍び込めれば良いのだが……」


マオの言葉に、僕はしばし考え。


「仕方ない……姉ちゃん」


没収をしていた姉ちゃんの杖を返す。


「ふえ? 急にどうしたの?」


「一刻一秒を争うみたいだから仕方なくだよ……姉ちゃん、方法は問わないから。あの二人から、情報をとってこれる?」


恐らく、あそこの二人にはとてつもない不幸が起こることだろう。

しかし、だとしても背に腹は変えられず僕は姉ちゃんに尋問を依頼する。


姉ちゃんは一瞬キョトンとした表情を見せたものの、僕の言葉の意味を理解すると……。


「……っ‼︎ うんわかったわユウくん‼︎ お姉ちゃんに任せて‼︎」


……満面の笑みで承諾をしたと思ったら、気がついたら作業をする男二人へと飛びかかっていた。


「なっ‼︎? お前一体なにも……おわあぁ‼︎」

「ひぃっ、たすけ、たすけぎゃあああぁ‼︎?」


首根っこを掴まれ、声を上げることもできずに隣の個室へと放り込まれる二人の男。


「合掌」


「「あい」」



その姿に、僕たちは哀れな犠牲者のために手を合わせるのであった。

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